2013年12月11日水曜日

第727話 「あしたのジョー」の町から (その2)

劇画「あしたのジョー」の物語は泪橋から始まった。
われわれの酒交も泪橋を始まりと決めた。
待合わせたのはJR常磐線・南千住駅だ。

N目サンは今日一日まったくのフリー。
そうしておいてたっぷり睡眠をとり、
喫茶店でブランチを済ませてきたという。
気力はみなぎり、本当にやる気満々の様子で現れた。
だからといって「やるき茶屋」にはお連れできません。

小塚原の刑場跡をご覧に入れ、常磐線の跨線橋を渡る。
右手に都営バスの車庫があり、
バスは南千住駅と東京駅八重洲口を結んでいる。
陸橋から100mそこそこの距離に泪橋の交差点が見えた。

1軒目は交差点にほど近い「淀屋酒店」。
角打ちにもかかわらず立ち飲む客は一人もいない。
町会の待合所みたいな空間に
みなゆるりと腰を降ろし、好みの酒を楽しむ。
N目サンには初体験の強烈な場末感が漂っている。

互いに好みのスーパードライ大瓶で乾杯した。
なんだかとっても感激してくれて、こちらが恐縮してしまう。
感激ついでにN目サンが所望したのは袋入りのアラレ。
昔からある煎餅みたいなアラレは
歌舞伎揚げなる立派な名前があるのだそうだ。
歌舞伎揚げかァ、それじゃ感激じゃなくて観劇だネ。

2杯目は最近ご無沙汰のため、懐かしさを感じる発泡酒、
サッポロ北海道プレミアムのロング缶だ。
相方はレモンの酎ハイに移行している。
おそらくキリンの氷結だ。

もう一品のつまみはこれまた懐かしい魚肉ソーセージ。
すると店のオヤジさん、ソーセージの端を剃刀でスパッと切った。
赤いフィルムをむき易くするためだろうが
最近あまり見掛けない女性の襟足を剃ったりする剃刀だから
見ているほうの襟足までヒヤリ寒くなった。
いわゆる男用のT字形ではなく、I字形の怖いやつだ。
まっ、それはそれとしてソーセージには
マヨネーズをたっぷり添えてくれた。

先は長い、そろそろ河岸を替えねば―。
浅草方面に向かい、吉野通りを南に歩く。
行く先は都内屈指の大衆酒場「大林酒場」だ。
何せ、ここのオヤジさんは都内屈指、
もとい、都内随一の気難し屋だから
N目サンのリクエストにドンピシャリなのだ。

入店と同時に何か起こりそうな予感。
あゝ、やっぱりな、いきなりガツンとやられちまった。

=つづく=

「淀屋酒店」
 東京都荒川区南千住3-11-14
 03-3801-6789