2013年12月24日火曜日

第736話 上野で乗った都営バス (その1)

東京・上野の不忍池に渡り鳥たちが帰って来た。
都内23区、それも山手線の内側で
鳥たちの戯れを眺めることのできる場所は
ここしかないのではなかろうか。

その日の夕刻は池畔をそぞろ歩いていた。
午後4時を回っため、もう動物園には入れない。
したがって、カワウ、ペリカン、コハクチョウたちを
間近に見ることはできない。

そう、驚いたことに
この池にはハクチョウまでいるのだ。
昨日、80歳の誕生日を迎えられた、
天皇陛下がお住まいの皇居のお濠以外に
都内でハクチョウの姿を拝めるのは不忍池だけだろう。

もっとも日本の冬の到来とともに
はるかシベリアから渡って来たわけではない。
いや、もともとは野生のハクチョウなのだが
翼を傷めて北へ帰れなくなった数羽が
動物園の庇護のもと、ひっそり暮らしているんだそうだ。

世のお父さん、お母さん、可愛いわが子に
童話「みにくいアヒルの子」を語って聞かせたことがあるのなら
ぜひ一度、実物を見せてやっておくれでないかい?
子どもたち、殊に女の子はきっと歓びますヨ。

宮城県在住の友人が言うには
彼の地でも伊豆沼や長沼に毎年ハクチョウが飛来するものの、
必ず何羽か怪我をしてしまい、取り残されるとのこと。
空を翔べるとはいえ、やはりワイルド・ライフはきびしい。

小一時間も池のほとりを散策したろうか、
御徒町か湯島で一杯やろうと広小路に出たところ、
目の前に早稲田行きの都営バスが停まっている。
この路線は確か

 上野―根津―団子坂下―動坂下―
 千石―護国寺―江戸川橋―早稲田

そんなルートであるハズだ。

ふ~む、途中の団子坂なら谷中銀座、
動坂下だと田端か駒込、千石からなら巣鴨も近い。
まあ、行き当たりばったりで酒場に苦労することはあるまい。
衝動的とまでは言わないが、反射的に飛び乗っていた。

たまに乗るとバスはいいもんですねェ。
ちょいと高めの位置から東京の街を眺めていると
心なしかワクワクしてくる。
今はみなワンマンカーだが、われわれ子どもの頃は
紺の制服をまとったバスガールのオネエちゃんが
「願います、発車、オーラ~イ!」―なんちゃって
後楽園球場のウグイス嬢顔負けの美声を放ったものだった。

=つづく=