2019年7月5日金曜日

第2169話 白い粉にギクリ(その3)

目黒区・目黒は権之助坂の「とんかつ大宝」。
奥にA卓(3人掛け)、B卓(2人掛け)が配置され、
隣客とヒジがぶつかりそうなカウンターは8席。
椅子と壁の間隔も狭く、人が通るたびに背中を撫でられる。
奥から3番目の席にちぢこまっていた。
右隣りでは下着姿の特ロース野郎がサラダを食っている。

そうそう、何気なしに見た小姐の手元にギクリとしたのだ。
盆に並べた10個ほどの椀に
彼女が小匙で投入していたのは白い粉だった。
それもけっこうな量である。

瞬時に頭をよぎったのはMSG。
MSGったって、マディソン・スクエア・ガーデンじゃないヨ。
モノソディウム・グルタメイト、いわゆる化学調味料のことだヨ。
だけどなァ、あんなに入れたら飲めんだろうに—。
この時点で頭の中を占拠したのは
ロースかつではなく味噌汁だった。

入店から25分、隣りのの特ロースがサーヴされた。
狐色の生パン粉に包まれたソレはさすがにデカく分厚い。
バックンバックン食うのはいいけど、
その際に発する咀嚼音が耳障りで仕方ない。
おい、おい、口を閉じて噛みなヨ。
言おうと思った瞬間にロースかつ定食が到着して
教育的指導の機会を失う。

6切れのかつ、山盛りキャベツの上に小盛り紫キャベツ、
櫛切りレモン、以上がメインプレート。
そしてJ.C.の目を釘付けにした味噌椀には豆腐がちらほら。
さっそく椀に口をつけた。

ん? んんん? 
おやっ、あんまり化調、カチョーしてないな。
これならフツーの食堂の味噌汁と変わらない。
どうやら白い粉はMSGではなく、
ましてや覚醒剤やコカインであるはずもなく、
出汁粉の粉末だった模様。
だけどサ、ああいうのは客の見えない所でやっておくれ。
いや、ギクリとしたなァ、もう!

肝心のロースかつである。
ヒマラヤ岩塩、生醤油、とんかつソースに
練り辛子を駆使して食べ進んだ
どうも豚肉本体の旨みが薄い。
そして筋切り不十分で食感がよくない。
11年前とは別店の別物と化していた。
よって評価は真っ逆さまに落ちてデザイヤー。

外は篠突く雨。
幸い「とんかつ大宝」の前はアーケード。
それが途切れる場所に偶然あった、
コンビニでビニール傘をゲットする。
だけどネ、これじゃ、
理髪予約を先送りした意味がまったくないんだワ。

=おしまい=

「とんかつ大宝」
 東京都目黒区目黒1-6-15
 03-3491-9470