2019年7月12日金曜日

第2174話 流れ流れて多摩川線 (その5)

矢口渡の駅周辺を一めぐりして絞り込んだ3軒の候補店。
最終的に択んだのは「甚六鮨」だった。
決め手はそのたたずまいにあった。
鮨屋の場合は居酒屋のようなチョコッと使いが難しい。
それなりの注文とそこそこの滞空時間が求められる。
殊に初訪の店で不作法は避けたい。

1軒目の「白鶴」を軽めに仕上げてきたおかげで
酒も肴もまだまだいけるハズ。
おもむろに引き戸を引いた。
つけ場の店主と二番手に単身である旨を告げ、
ビニール傘を傘立てに納めながら
彼らの視線を総身に感じていた。

つけ台の奥に促され、おもむろに着席。
銘柄を確かめたうえでアサヒの大瓶を—。
突き出しはいかの塩辛。
これは自家製に相違ない。
滋味にあふれている。

先客はつけ台に2人、入口近くのテーブルに4人組。
奥の座敷からもさんざめきが流れてくるので
かなりの客入りと思われた。
近所の常連、それも家族連れの利用が多いようだ。
目の前の職人2人は大きな飯台に盛り込む、
にぎりの製造に大忙しの様子だが
使っているのは明らかに本わさびではない。
(心のうちでガッカリ)

季節の白身を少し切ってもらおうか?
それとも平目か真鯛の薄造りをポン酢でやれば
当面のわさび問題はクリアできる。
そう思いつつも品書きに酢の物盛合せを見つけ、方針転換。
鮨店、あるいは鮨職人の力量を推し量るに
好都合な一鉢だからネ。

そうしたら想像を上回る大鉢がドンと来た。
陣容はといえば、
小肌・たこ・いか・海老・青柳・北寄・氷頭、
そして胡瓜とわかめ。
これが1切れづつではなくて
中には3~4切れのものもある始末。
箸をつける前からげんなりしてしまった。
いや、マイッたなァ。

どうにか4分の3ほどクリアして、とうとうギヴアップ。
食べ切れなかったのは主にたこといかだ。
一息ついて芋焼酎・伊佐美のロックに切り替える。
おやおや、これまたかなりの容量のグラスになみなみと—。
「甚六鮨」はなんでんかんでん大盤振る舞いなんだネ。

=つづく=