2019年7月18日木曜日

第2178話 アサヒを浴びて サッポロに酔う (その3)

銀座7丁目の「ライオン音楽ビヤプラザ」で
ブーツグラスの生ビールをグビッと飲っている。
思い出すのは半世紀の以前、
同じ「銀座ライオン」でも所は池袋東口店だった。
大学に通い始めた頃、たびたび利用したのがここで
現在の「ビヤプラザ」のように毎晩ステージがあり、
ヨソでは体感できぬ、大人の空気が流れていた。

十代最後のJ.C.の誕生日に
高校時代の友人たちがここで祝ってくれたが
若かったんだねェ、みなでステージに上がり、
「人生劇場」をがなり散らしたあと、
バックステージに飾られていたドデカいブーツグラスに
当夜の主役として無謀にもチャレンジする自分がいた。

1.5Lはあったんじゃないかな?
一気に飲み干したものの、いったんは胃袋に落下した泡が
食道を逆流してきて口外に吹き出す始末。
口角泡を飛ばすとはまさしくこのことであった。
ハハ、愚かしくも懐かしい思い出。

運ばれ来たる料理は最初に当店の定番、ニシンのマリネ。
続いてフィンガーズ・プレートと称する揚げもの盛合せ。
ベースのフィッシュ(たら)&チップスにチキンとごぼう、
さらにはガーリックトーストまで盛られている。

18時30分になり、1回目のステージが
「盃(さかずき)の歌」で賑やかに始まった。
6月の歌「夏の思い出」のあとは
「ハッピー・バースデイ」のオンパレード。
ほとんどの客が誕生日がらみなのだ。

S代サンの順番が回って来る前に休憩時間。
テーブルにはムール貝の白ワイン蒸し、
いわゆるマルニエールがド~ンと。
ほかにも何品か到来したが手をつけなかった。
というより、見もしなかったネ。

19時30分からの第2ステージ。
われらが主役への「ハッピー・バースデイ」も無事終わり、
テレながら卓に戻った彼女のためにあらためて乾杯。
先刻のムール貝のだし汁を活用したスパゲッティが運ばれる。
締めとしてちょっとだけいただき、そろそろお開きだ。
リクエスト曲に「夜のタンゴ」と「狂乱の場」を書き込んだものの、
接客係に手渡すチャンスを失い、あきらめていた。

そうこうするうち、第2ステージの最終曲となった。
ソプラノの福士紗希サンが歌ったのは何と「狂乱の場」じゃないか!
ドニゼッティのベルカント・オペラ、
「ランメルモールのルチア」のクライマックスで歌われるアリアだ。

客のリクエストには第3ステージで応えるようだから
この曲は彼女自身が択んだ、自信あふれる持ち歌のハズ。
推察した通り、すばらしい出来映えに心が震えてしまった。
さすがにこぼしはしないが薄っすらと涙がにじんだくらい。
「ブラーヴァ!」
帰宅後、カラスの同曲を聴いたことは言うまでもない。

=おしまい=

「ライオン 音楽ビヤプラザ」
 東京都中央区銀座7-9-21 銀座ライオンビル5F
 03-3573-5355