2019年7月26日金曜日

第2184話 小肌を超えた翻車魚 (その3)

文京区・湯島の「岩手屋 支店」。
またの名を「七福神 岩手屋」というらしい。
由来は扱う清酒の主力銘柄が岩手の七福神であること。
「シンスケ」は秋田の両関、「岩手屋」は岩手の七福神。
東北6県はまっこと日本酒の宝庫でありますな。

品書きにはひっつみをはじめとして
岩手の気取りのない郷土料理が並ぶ。
ひっつみとは水団(すいとん)の一種で
ルーツは山梨のほうとうにあるという。

飲食を重ねたあとながら酒はまだまだOK。
ところがつまみの収納スペースは
わがストマックに残されていない。
ここは心して掛からねば―。

本日のおすすめをとらえた視線がそこで釘づけとなった。
ん? 何だ、なんだ! 翻車魚とな。
翻車魚はなかなか読めないでしょ?
いえ、ボードにはマンボウと記されてたんですけどネ。

マンボウかァ・・・いや、実に久々の遭遇である。
あれはちょうど10年前の夏。
仲間と1泊で外房・内房をめぐる旅に出かけたが
立ち寄った南房総の港町、千倉のうなぎ屋で
ビールの友としたのがマンボウの湯引きだった。

こうなったらほかのモノは目に入らない。
相方の意向を訊ねるヒマもあらばこそ、
発注に意気込むJ.C.であった。
おい、おい、さっきオメエ、
胃にはもう余裕がないってホザいたばかりだろがっ!
ってか? そりゃ、ごもっともですが
こういう場合はなんかこう、いえ、別腹ってんじゃないけれど、
ホラ、あの満員のバス旅行のときやなんか
補助イスってのがあるでしょ? 
あんなのが出て来るわけなんすヨ。
けっ! ってか? まあ、先にお進みくだされ。

おっと、マンボウ料理が2種類あるじゃないの。
まず刺身、これは酢味噌でやる。
そして皮、こちらは塩を振ってのあぶり焼きだ。
七福神の冷たいのでやって、大きくうなづいた。
珍しさも手伝ってか、翻車魚が小肌を超えて上をいく。
この出会いを僥倖と言わずして何と言おう。

亭主を逆L字で囲むカウンターの客たちと談笑が始まった。
7人ほどの同席者が全員参加だからけっこうな賑わいだ。
その中に今春、
四代目を襲名したばかりの三遊亭圓歌師匠がいた。
店の馴染みであるらしく、常連客とも打ちとけている。
われわれとのハナシにも弾みがついて
ありがたいことに千社札までいただいちゃったヨ。
いずれにしろ、楽しい一夜でありました。
おあとがよろしいようで—。

=おしまい=

「岩手屋 支店」
 東京都文京区湯島3-37-9
 03-3831-9317