2011年4月8日金曜日

第27話 芋を洗うインディアン

社会派推理小説の嚆矢、松本清張の「点と線」で
重要な舞台となった東京駅のプラットホーム。
当時とは打って変わって現在はホームの数も
日本各地をつなぐ新幹線に加え、
総武線・京葉線が地下に乗り入れ、
合計で22線もあるそうだ。
ほとんどのホームは南北に走っており、
線路の東側が八重洲口、西側が丸の内口となっている。

意外と知られていないのは八重洲側(中央区)にも
丸の内(千代田区)の地番がはみ出していること。
「大丸 東京店」、「シャングリラホテル」は丸の内1丁目。
有楽町駅前の「ビッグカメラ有楽町テレビ館」は3丁目だ。

このようにヘンテコリンになったのは
東京駅全体を千代田区内にすっぽりと納めるためだろう。
線路の真ん中で千代田区と中央区に分割はできない。
外堀通りをはさんで東京駅の向かい側にある、
「八重洲ブックセンター」へはちょくちょく出向く。
できることなら書籍は書店で買いたいからだ。
毎回5~6冊、まとめ買いしている。
10冊となると、かなりかさばるし、重いしね。

本を買いに行けば、近くで昼めしか晩酌は必至。
持ち駒は「京すし」、洋食「京橋モルチェ」、
和洋食「きむら」、和食「柿の木」、焼き鳥「栄一」、
中華「長寿軒」といったところ。
忘れちゃならないのはインド料理の「ダバインディア」。
界隈きっての人気店は常に満員御礼。
これほど客があふれ返っているインディアンは
東京広しといえどもほかにない。
その光景たるや、あたかも真夏の湘南海岸の如し。
芋で芋を洗うような有り様だ。

3月初旬、みちのくから上京した友人を案内した。
最終の新幹線で帰郷する手はずとあって
移動しやすい八重洲で夕食をともにしたのだ。

「ダバインディア」の内装はインド風にはほど遠い。
といって欧風でもなければ、
ましてや和風であるわけもない。
壁面の濃いブルーがラピスラズリを思わせる。
狭いテーブル間隔によるストレスさえしのげば、
なかなかに素敵な空間だ。

インドの盛合せ定食、ミールスを1人前、
あとはナンとプレーンドーサとチリパコラ、
タンドゥーリチキンにラムコルマを注文。
この店の旨さは他のインド料理店とはまったく異質。
激辛・濃厚とは無縁でスッキリとしたあと味が残る。
キレ味が鉈(なた)や斧(おの)ではなく、
剃刀(かみそり)のそれと言ったら判りやすいだろうか。

インドの赤ワイン、スラ・シラーズの甘さには
辟易としながらも南インド料理を堪能しつくした。

平和な夜は更けてゆき、
友は夜汽車で北へ帰って行った。
突如としてみちのくの平和が粉砕されたのは
その数日後のことである。

「ダバインディア」
 東京都中央区八重洲2-7-9
 03-3272-7160