2011年4月28日木曜日

第41話 迷った挙句の幕の内

東京・神田は日本橋と並び、都心にあってだだっ広い街。
神田、神田と申しましても、いささか広うござんす。
おっと、これは関東、関東の間違い。
実在の人物、千葉周作といえば神田御玉ヶ池である。
  ♪ 見てはいけない 西空見れば
    江戸へ 江戸へひと刷毛 あかね雲 ♪
       佐原囃子が聴えてくらァ、
       想い出すなァ・・・御玉ヶ池の千葉道場か。
       うふ・・・平手造酒もいまじゃやくざの用心棒、
       人生裏街道の枯落葉かァ。
これは平手造酒を主人公に据えた「大利根無情」のセリフ入り。
歌い手は三波春夫でございます。
   
いっぽう架空の人物、銭形平次とくれば神田明神下であろう。
  ♪ どこへゆくのか どこへゆくのか 銭形平次
    なんだ神田の 明神下で
    胸に思案の 胸に思案の 月をみる   ♪
こちらはTVドラマの主題歌で舟木一夫が歌った。

GWが明ければ、ほどなく江戸三代祭の神田祭が幕を開ける。
神田明神(神田神社)の例大祭だ。
お参りをすませた参詣客が男坂を降り終えると、
胡麻油のいい匂いが流れてくる。
匂いの出元は天ぷらと鮨の「明神下 みやび」。
ところが店内に油の匂いは立ち込めていない。
ここが「みやび」の雅びたる由縁であろう。

ともに金千円也のみやび天丼と六角幕の内二段重、
迷いに迷った挙句、幕の内に心を決めた。
これは限定15食の日替わりサービスで
普段は”限定”を忌み嫌うのだが、幕の内に惹かれたのだ。

二段ではなく、前後して運ばれた六角重の内容は
 一の重  こんにゃく刺し 高野豆腐と野菜の煮物 サラダ
 二の重  ずわい蟹 玉子焼き ネギトロ丼 漬け生姜
 豆腐と油揚げの味噌椀

二の重が運ばれたとき、「うっ!」―思わずうめいた。
白飯のつもりがネギトロ丼だったからだ。
そういえば店先の品書きに
本日の日替わりはネギトロ丼と、明記されていたではないか。
鮨屋だろうが海鮮居酒屋であろうが
絶対に頼まない一品が今、目の前に。
うかつであった、愚かであった。
日替わりと幕の内が同一だなんて思わんもん。

仕方ないからネギトロを肴にビールを飲むことにした。
粉わさびを醤油で溶いて上からチョロリと掛けてやる。
よく冷えたアサヒの生が格別だったせいか
いざ口にしてみると悪くはない。
悪くはないが、まぐろとねぎの組合せには積極的になれない。
このときJ.C.オカザワ、
なんだ神田の明神下で、胸に思案の重をみていた。

「明神下 みやび」
 東京都千代田区外神田2-8-9
 03-3251-0155