2011年4月11日月曜日

第28話 東京屈指の立ち食いそば

脚の向くまま、気の向くままに、
ゆくえ定めずテクテク歩くのが趣味。
散歩を趣味にすると金が掛からなくていい。
かといって金が貯まることはない。
それが金という、得体の知れぬ魔物の条理だろう。

住宅街をいくら歩いてもつまらないが
商店街だと商い、もとい、飽きない。
電車に乗らずに沿線の駅を歩いてめぐるのは好きだ。
それぞれの駅の周辺にそれぞれの表情があり、
界隈をさまようのは大きな楽しみである。

その日は比較的都心に近いところにいた。
大塚駅前の立ち食いそば店、
「みとう庵」で遅めの昼めしをとった。
午後1時近くににガッツリ食べては
晩めしに悪影響を及ぼすので
もりそばあたりで軽くしのぐのが得策だ。

立ち食い店ながら「みとう庵」のレベルは高い。
都内随一とは断言しかねても
都内屈指であることに疑いはない。
夫婦者と思しき二人で切盛りしていて
自家製のそばとつゆが自慢だという。

そばは細・太2種類あり、どちらも粗挽き。
細いほうはアッという間に茹で上がるが
太いのは5分ほど要するために
ほぼすべての客が細切りを注文している。
立ち食い店での5分待ちは相当に手持ち無沙汰だ。

ほどよい噛み締め感を持つそばと
下世話な甘みを含むつゆとの相性がとてもよい。
甘みを完全に排したつゆは好みではない。
カツブシの匂いが気になることがあるからね。
もりは1枚300円、お値打ちである。

仕上げにそば湯をすすり、西に向かって歩みを運ぶ。
見慣れた町をゆっくりと進む。
千石の裏筋に日本そば店「進開屋」が
相も変らぬたたずまいを見せている。
大正時代に創業した老舗は震災で1度焼けた。
昭和4年に再建された木造2階建ては戦災を免れ、
今では都の有形文化財に指定されている。
ここで一杯飲ったのはかれこれ10年前のことだ。

「進開屋」を左手に見て白山方面に向かう途中、
古いスーパーの店先に目が留まった。
今の時期には珍しく食パンが山積みにされている。
いっとき棚から姿をくらましたパンも納豆も牛乳も
やっと戻ってきたんだね。
あとはヨーグルトを待つのみだが
この身にははなはだ無縁で無用の長物。
さりとて便秘やピロリ菌対策で常食している人には
さぞ待ち遠しいことでありましょうな。

「みとう庵」
 東京都豊島区南大塚3-49-8
 03-3982-3035