2012年11月15日木曜日

第448話 10年ぶりの「リラ・ダーラナ」 (その1)

その夜はまだ六本木にいた。
「STB139」で jammin Zeb を聴いたあと、
同行のオバさま方より一足先に会場を出て
ポストシアターの物色を開始したのだ。

ミュージカル、バレエ、オペラ、コンサート、
どこへ出掛けようとも欧米なら
プリシアターとポストシアターはきわめて重要。
とりわけデートの場合は男の腕の見せ所だ。
公演前の軽い食事がプリシアター。
公演後の軽い飲酒はポストシアター。
別段、軽く収める必要とてなく、
とことん重くなっても誰も文句は言わない。
ただし、プリで飲み食いがすぎると、
公演のさなかに爆睡の憂き目を見ることとなる。

降って湧いたように
メトロポリタン・オペラにハマッた1990年代。
プリはもっぱらリンカーンセンター近くのイタリアン。
インサラータ・トリコローレ(イタリア国旗風サラダ)や
ヴィッテロ・パイラルド(薄切り仔牛肉の網焼き)をよく食べた。

ポストシアターは58丁目のロシア料理店「P」がなじみ。
ここのバーでよく冷えたストーリを
2~3杯というのがいつものパターンだ。
ストーリはロシアン・ウォッカのストリチナヤのこと。
カーネギーホール(57丁目)の並びにある、
同じくロシアンの「R.T」より素敵な店だった。

六本木の夜にハナシを戻そう。
当夜のポストシアターの第一感は「リラ・ダーラナ」。
芋洗坂を麻布十番方面に降ってゆく途中にある。
ここはスウェーデン料理が主体の北欧料理店だ。
行ってみたら扉に貼り紙が1枚。
実際は移転案内だったが遠目には閉店通知に見えた。
幸いにも移転先は徒歩圏内、それも5分ほどの距離にある。

旧店を訪れたのは10年前の2002年4月のこと。
ワイン好きの小集団、「煩悩の会」の定例会で
その月はJ.C.が幹事だった。
店の予約のみならず、持込みワインの手配もしたっけ…。
10年なんてアッという間ではないが
月日の経つのは早い。

あのときは前菜の盛合わせで始まり、
アンチョヴィとポテトのグラタン、
シーフードのクリーム煮、
国民食のチェットブーラーもいただいた。
チェットブーラーは俗にいうミートボール。
スェーデンでは木苺のジャムを添えて食する。

北欧料理を目の前にすると、
ストックホルムのレストランで
皿洗いをしていた若き日を思い出す。
何を食べてもおいしく、何をしても楽しい日々だった。

=つづく=