2012年11月20日火曜日

第451話 文豪・川端が名付け親 (その2)

大映映画「赤線地帯」が公開された1956年。
この年は滅びゆく花街・柳橋を活写した、
「流れる」(成瀬巳喜男)も封切られている。
心に残る名作で大好きな1本だ。
洋画では「居酒屋」、「ヘッドライト」、「ピクニック」などが。
作品における洋の東西を問わず、
映画が全盛期を誇った懐かしくも輝かしき時代。

一般家庭に普及し始めたTVでは
「お笑い三人組」、「チロリン村とくるみの木」、
「名犬リンチンチン」といった番組が茶の間の人気を集めた。
街には三橋美智也の「哀愁列車」、「リンゴ村から」が流れていた。
三浦洸一の「東京の人」、大津美子の「ここに幸あり」もこの年。

書籍では石原慎太郎の「太陽の季節」。
思うにこの人の活動期はずいぶん長いや。
今また国政に打って出るってんだからネ。
弟の短命が悔やまれる。

昨日の当ブログをご覧になった方から
文豪・川端はいつ出て来るの? というお問い合わせ。
承知しておりますって、でも。もう少々お待ちください。
その前に「赤線地帯」の男優陣。
映画の性格上、主だった役は
女優に割り振られ、オトコどもはみな脇役だ。
その脇役がそれぞれにいい味を出している。
菅原謙二だけがミスキャストながら
これは菅原の責任ではなかろう。
彼にチンピラみたいな役は似合わない。

個性的な風貌の多々良純は好きな俳優だった。
劇中、休日なのだろう、
木っ端役人の彼が家族だんらん、食堂で昼めしである。
骨付きの鳥ももをしゃぶっていたら
折悪しくなじみの若尾とバッタリ、女房に怪しまれてしまう。
そのときのあわてふためきが
手にした鳥ももとあいまって独特のおかしみを醸す。
食堂は日本の外食の一時代を築いた「鮒忠」。
昭和30年代、「鮒忠」の鳥ももはご馳走だった。
暖簾にしっかり屋号が染め抜かれているから
これはセットではあるまい、どこかの店舗のロケだろう。

特飲店「夢の里」では田舎から出てきたばかりの、
いわば半玉、川上康子が小間使いをしている。
そう、この芸名から察しがつくでしょう?
川端康成が”川”と”康”の字を与え、
みずから名付けた女優が彼女なのだ。
美人でもなんでもないが、実にすばらしい。
店屋モノのどんぶり(おそらく親子丼)を初めて口にして
そのおいしさに感激する姿がほほえましくも印象的。
笑っているうちに目がしらが熱くなってしまった。
そして今度は初めて客を取ることになって店先に立つ。
彼女のアップで映画は終わる、強烈なラストシーンだ。
あとは観てのお楽しみにしてください。

劇中、「夢の里」の経営者・進藤英太郎が
たびたび発する売春禁止法なる言葉。
度重なる流産を経て法律が成立したときには
売春防止法と、その名称がすり替わっていた。
”防止”と”禁止”かァ、ビミョーってばビミョーだ。