2012年11月19日月曜日

第450話 文豪・川端が名付け親 (その1)

今月下旬に発売される雑誌の取材で
毎晩のように下町を徘徊していた。
浅草は毎度のことだが
ずっと範囲を拡げて門仲・森下・押上・向島・三ノ輪、
南と北の千住に堀切菖蒲園までも北上した。
しまいにゃ下町を通り越して西新井どころか
はては東京を突き抜けて埼玉県・春日部まで行った。

どこを散策していても楽しみはつきない。
中でもかつて色街・花街だった一郭の残り香を嗅ぐのが好き。
今の時代のフーゾクにはトンと興味がないくせに
赤線の跡地をさまようときの気分は格別のものがある。
おかしいでしょ?

10日ほど前のある夜、赤線地帯に迷い込んだ。
というのは冗談で、映画「赤線地帯」(1956)を観た。
この作品、過去に2回は観ていると思うが
たまたまひかりTVで放映されるのを知り、看過できなかった。
言うまでもなく監督・溝口健二の遺作は
撮影が宮川一夫、音楽は黛敏郎ときて
巨匠三人の豪華な揃い踏みである。

舞台は「夢の里」なる吉原のサロン。
これを女郎屋と呼んだら元も子もない。
やることは一緒でもサロンと女郎屋じゃ、
イメージの面からも天と地ほどの差があろう。

ザッと配役を紹介しておきたい。
サロンを営む亭主と女房が進藤英太郎と沢村貞子。
両者、いい味を出している。
そして何よりも娼婦役の女優たちがすばらしい。
京マチ子・若尾文子・小暮実千代・三益愛子・町田博子。
脇を固める男優陣は
菅原謙二・加東大介・十朱久雄・多々良純・田中春男。
こうして並べると何だか夢を見ているようだ。

京マチ子が白眉。
この大女優は日本人離れした桁違いの存在感に満ちている。
現代女優が束になってかかっても
軽く一蹴してしまうほどのパワーを秘めている。
「羅生門」のあの妖艶美はいったい何なんだ!

撮影当時45歳の三益愛子扮する年増娼婦も印象的。
春をひさぐ稼業の悲哀をあますところなく演じ切る。
あまりにもリアリスティックな演技が観る者の胸を打つ。
サロンの店先で客引きする母親を見て
絶望した一人息子に捨てられてしまう。
走り去る息子に追いすがろうとしてとどかぬ後姿が
映画には出ていない、杉村春子を連想させた。
実生活での三益のご亭主・川口松太郎は
自分の妻ををどんな思いでみたのだろうか?

=つづく=