2012年11月29日木曜日

第458話 昔恋しい高砂の町 (その2)

かれこれ8年ほど前のハナシをしている。
その夜、京成線の高砂駅前に来ていた。
昔恋しい高砂の懐かしい「T」がまだ暖簾を掲げていたのだ。
若女将の変容ぶりにたじろぎながらもカウンターに着き、
あらためて目の前の女将と目を合わせた。

ありゃりゃ、なあ~んだ・・・そうだったのか!
思うのと同時に
「お客さん、ウチ初めてですよネ?」
「それがそうじゃないんだなァ」
「あら、いらしたっけ?」
「うん、ずいぶん昔になるけど・・・」

こんな会話が交わされたがなんのことはない、
目の前の女将はT子とは別人なのだった。
そりゃそうだろう、似ても似つかないもの。
しかしながら遠目で見るより近目のほうが
整った顔立ちで、これは珍しいケースといえよう。
昔から”夜目遠目笠の内”っていいますからネ。

ビールと一緒に出ためかぶポン酢の歯ざわりがいい。
刺身は真子がれい・かつお・〆さばの盛合わせ。
料理に限ると、昔よりずっといいんじゃなかろうか。
麦焼酎の神の河に移行し、お次は鰯の塩焼きだ。
ややっ、これも水準が高いゾ。
鮮度も焼き加減も申し分ない。
いや、実に感心したのだった。

ひとしきり落ち着いて女将との会話が始まる。
居抜きで店名ごと店を引き継ぎ、丸8年になるそうだ。
駅から1分という立地も幸いし、客入りはまずまずだと言う。
呑ン兵衛オヤジのディープタウン・立石と異なり、
青砥・高砂の食レベルはけして高くないのに
大健闘の一軒と言ってよい。

ハナシは当然、先代の女将・T子に及んだ。
すると、彼女は線路の反対側で
スナックを経営しているというではないか。
こりゃ是が非でも立ち寄らずばなるまい。

でもって踏切を渡りました。
スナック「M」はすぐに見つかりました。
四半世紀ぶりの再会に思い出話の花が咲き乱れました。

店内にはT子ママのほかに若い娘が一人。
何とこれがT子の愛娘のM子嬢で
店名は彼女の名前に由来している。
実はこの娘(こ)がまだ母親に抱かれている時分、
二度ほど見たことがあるのだ。
いや、まいりましたネ。
そんなこんなで楽しい宵となりました。

その夜更け、どうやって家に帰ったのかトンと覚えていない。
いえ、酔っぱらったからではなく、
8年も前だから思い出せないだけですって―。

=つづく=