2012年11月23日金曜日

第454話 あっちフラフラ こっちフラフラ (その3)

母校・上板一中は廃校を免れて
昔日の面影をとどめていた。
一年生の数組が放り込まれた離れの木造校舎は
取り壊されて跡形もない。
跡地はスイミングプールになっていた。
本校舎と体育館は見たところ変わりがないようだ。
おっと、のんびりしてもいられない。
先の道のりはまだ長いゾ。

東新町の辺りでいったん川越街道に出て
陽光の下、時折吹きつける強風を受けながら足早に歩く。
遠くに五本けやきが見えてきた。
ここで街道をそれ、上板橋駅南口の商店街へと切れ込んだ。
せっかくの機会、駅周辺を探索しとかなければ・・・。

隣り駅の常盤台は板橋区きっての高級住宅街。
対照的に上板橋はグッと庶民的だ。
跨線橋を渡り、反対側の北口へ。
階段を降りたところで駅に隣接する「吉野家」に目を奪われた。
あの牛丼の「吉野家」だが
「吉野家」は「吉野家」でも、ただの「吉野家」ではない。
掲げられたネームプレートには「築地吉野家」とあった。
しかも”牛丼専売店”を謳っている。

ピンときたのは築地場内市場にある「吉野家1号店」のこと。
元はといえば日本橋の魚河岸にあった1号店は
関東大震災後の魚市場移転に伴い、築地に移ってきた。
確かに築地店は牛丼しか扱っていない。

BSE騒動で米国産牛肉が輸入禁止になったとき、
他チェーンのように豪州産・中国産に頼らない「吉野家」は
牛丼販売の自粛に追い込まれた。
それでも築地の1号店、府中と大井の競馬場、
戸田競艇場の4店舗だけは営業を続けた。
築地は栄えある1号店としての矜持だろう。
残りの3店は施設内にある他店の業態と競合しないように
牛丼しか売れない契約を結んでいたのだ。

さて、上板橋駅前である。
築地以外で初めて目にした「築地吉野家」である。
こりゃ入らんわけにいかんわな。
食べとかなきゃ人に語れんわな。
かなり歩いて来たんだ、ビヤーブレイクも必要だわな。

自分で自分を説得して、エイヤ!っと入店。
お願いしたのは牛皿(200円)と
スーパードライ中ジョッキ(350円)である。
ジョッキは「ちょもらんま 大山店」より若干大きめだった。
1皿200円はずいぶん安いがつまんでみると、
気のせいかほかの「吉野家」よりおいしく感じた。
帰宅後、調べたらこの形態は都内にけっこうあるじゃないか。
ここもつい最近まで「そば処 吉野家」だったのを
売上不振のせいだろう、模様替えしたとのこと。

支払いの際、お店のアンちゃんに訊いてみた。
「ビールだけってのはダメでしょ? ダメだよネ?」
一瞬応えに詰まった彼、一拍おいて曰く、
「そっ、そうですネ」
「今までそんなお客いた?」
「エッ、ハイ、いません」
そうでしょう、そうでしょう。

餃子に母校に牛皿に、あっちフラフラ、こっちフラフラ。
そのあと急いで駆けつけたものの、
すでにコンサートの前半は終了、ティーブレイク中だった。
3回に渡ったこの稿のラベルの設定に迷った。
”飲む”でも”食べる”でもよかったが
やはり”歩く”がふさわしいと判断しました。

=おしまい=

「築地吉野家 上板橋駅前店」
 東京都板橋区上板橋2-36-2
 03-5922-4772