2012年11月28日水曜日

第457話 昔恋しい高砂の町 (その1)

 ♪ 昔恋しい 銀座の柳
   仇な年増を 誰が知ろ
   ジャズで踊って リキュルで更けて
   明けりゃダンサーの 涙雨   ♪
         (作詞:西条八十)

昭和4年の流行歌「東京行進曲」を
佐藤千夜子の歌声で聴きながらコレを書いている。
youtubeが映す御茶ノ水界隈の古い映像が心を洗う。
聖橋のアーチは今も御茶ノ水橋から眺めることができるが
駿河台に屹立していたニコライ堂は
今やビル群に消えて目視不能となってしまった。

昨日紹介したにせどろ酒場「ブウちゃん」を
つい先日、再訪した。
のみともM鷹サンとの待合わせまで小一時間ほどあり、
時間つぶしに金町にやって来たのだ。
気に入りのわさび茎漬けでボールを2杯飲み、
京成・金町線に揺られて高砂に向かった。

京成高砂にはかつてよく飲みに来た。
松戸在住の頃で1970年代後半から80年代初頭にかけてだ。
バイト先の同僚が高砂の団地に住んでおり、
彼の中学の同級生が駅前の小料理屋で若女将をしていた。
家族経営の佳店であった。

店の名前は「T」。
彼女の名前のC原T子に由来している。
暴露しちまえば、”T”は絶滅した日本古来の野鳥の名だ。
彼女は葛飾区にはもったいない(めんご!)ほどの美形で
近所のオヤジさんたちにとってマドンナ的存在だった。

もう何年も前になるが、たまたま高砂で下車し、
ものはついでと四半世紀ぶりに訪ねてみると、
驚くなかれ、暖簾に「T」と染め抜かれているではないか。
いやはや、ビックラこきました。
虹色の思い出が走馬灯のように・・・
いいえ、こんな使い古された陳腐な表現はやめよう。
胸の奥で柘榴(ざくろ)の実がつぶれたような酸っぱさを感じました。

大女将は引退しているだろうがT子はまだ現役かもしれない。
珍しくもJ.C.、ジャケットの襟を正して暖簾をくぐった。
すると・・・、するとでっせ、Oh, my God !!
カウンターの中には変わり果てた姿のオババが一人、
豆鉄砲をくらった鳩のような眼差しを送ってくるじゃないの。
あゝ、無情! あゝ、T子! 
ついに天は彼女を見放したかっ! 

夢破れて山河あり、
障子破れてサンがあり。
そこには後ろ手に引き戸を閉めながら
肩をガクリと落とすJ.C.がおりました。
月日の流れはかくも残酷なりけり。

=つづく=