2013年1月2日水曜日

第482話 坂の上のクスクス

北アフリカのチュニジアを訪れたのは1993年2月。
もう20年も昔になる。
隣国アルジェリアのアルジェから空路チュニスに入った。
イスラム原理主義者のテロが頻発していたアルジェリアに比べ、
小国チュニジアは平和を満喫していた。
少なくとも行きずりの旅行者にはそう見えた。
ところが実体はベン=アリーの腐敗独裁政権下だったのだ。

夕暮れどき、ホテルの窓から見下ろす、
街のメインストリート、ハビブ・ブルギバ通りの並木に
おびただしい数のムクドリが帰巣してくる。
その光景にヒッチコックの「鳥」を即座に連想、
背筋が寒くなったのをよく覚えている。

フランスの植民地だった国の食事は美味しいことが多く、
チュニジアもご多分にもれず料理の水準が高かった。
「Chez Nous(シェ・ヌー)」という名の、
フレンチ・チュニジアンが気に入り、2日続けて行ったっけ。
ツナと玉子のブリック、舌平目のムニエル、
ともにパリの優良店のレベルに達していた。

東京のチュニジア料理となると、
中野南口の「カルタゴ」くらいしか思いつかない。
東京のはずれの板橋区・志村に
「ブラッスリー・ジョルバ」の存在を知ったのはこの秋。
マグレブ諸国の国民食・クスクスが
ランチタイムに食べられると聞いて遠征した志村坂上である。

雲はかかってなかったが店は坂の上にあった。
おっ、チュニジアンビールのセルティアがあるじゃないか!
懐かしさもあってこれは見逃せない。
250mlの小さなボトル、1本だけで我慢する。

サカナ・チキン・ラム、クスクスは3種類揃う。
即決でサカナとラムをお願いした。
断っておくと現地にサカナのクスクスはまずない。
本来、クスクスは砂漠の民の日常食なのである。
カルタゴの海辺のレストランで
ルジェ(赤ヒメジ)のグリルを食べたが
ああいう小魚を煮付けてクスクスに仕立てるのだろうか。
興味しんしんで待ち受け体勢が整った。

はたして登場したのは丸1匹のアジだった。
これには失望の色、濃いものがあった。
アジなら塩焼きでいいんじゃないかい?
ブイヤベースの材料になるような白身魚がほしいところだ。
とはいっても白身の値段は半端じゃないからねェ。
スープとスムール(クスクス粒)はごくごく普通。
それではと期待したラムだったが
味も香りも明らかにパンチ不足で欲求は満たされない。

国、敗れて山河あり。
坂、上って悔いがあり。
結局は薬局、やはり板橋は板橋であったか、ハア~。

 ♪ われらのになふ 抱負を見ずや
   たてよ板橋 誇りもて すすめ 板橋 ♪
              (作詞:伊藤義雄)

あっコレ、母校・板橋の校歌です。
作詞のセンセにゃ悪いが「都の西北」のパクリじゃねェの?。

「ブラッスリー・ジョルバ」
 東京都板橋区小豆沢2-15-3
 03-6786-6187