2013年1月30日水曜日

第502話 狸小路の一夜 (その2)

なんだかこのところ、静岡&神奈川ばかりに出掛けている。
東海とか湘南とか三浦半島だとか・・・。
当ブログも静岡・沼津・横須賀と来て、現在は横浜だ。
太陽族でも湘南ボーイでもないオヤジがヨ。

横浜駅西口に近い狸小路で相棒が到着するまでのあいだ、
「呑喰処 一福」の止まり木に止まっている。
カウンターの中の女主人がクジみたいな紙片を引いてくれと言う。
年が明けてまだ1週間と少々、時期的にオミクジであろうか。
思えば初詣でに行っても、まずクジは引かないわが身である。

ところで女主人という呼び方はあまりにも野暮、
そういう雰囲気の持ち主ではないけれど、
便宜上、ママと呼ぶことにしておこう。

結びを解くと、そこには「焼き鳥2本」としたためてあった。
この当りクジで焼き鳥2本をプレゼントしてくれるらしい。
即刻、使用可能なのでこれを使えば、
先刻の白レバーとボンジリがタダになっちゃうのだ。
でも、そこはJ.C.、酒飲みとしての流儀はわきまえているつもり。
「まさか、当日に使う客はいないでしょう?」―ママに振ると、
あらぬ方向から声が上がった。
「ボク、今日、使っちゃうんですが・・・」―入口に一番近い席に
座っていた若者がバツの悪そうな顔をしてこっちを見ている。
アリャリャ、なんか悪いこと言っちゃったなァ、めんご、めんご。

たったこれだけのやりとりで一気に座がくだけた。
隣りにいた初老の常連とも会話が始まった。
たまたまこの御仁も野毛の町のファンだったから
交わす言葉に熱気がこもる。
先代のマスターが亡くなってから
ベツの店に成り果てた「パパジョン」に対する憤懣など、
心から同調したくなる。
店、殊にバーは”人”がすべてなのだ。

そんなこんなで1時間半はアッという間に過ぎ、
相棒からの電話が携帯を震わせた。
お勘定は生ビール3杯にお通しと焼き鳥で2500円。
あゝ、こんな店が東京駅の近くにあったらなァ・・・。

改札まで迎えに出て相棒をピックアップ。
心なしか表情にかげりがうかがえるのは
喪服姿のためだけではない。
それもそうだろう、師走には忘年会で顔を合わせた旧友に
新年の冬山で死なれちまったんだもの。

やはりこの相方と数日前に飲んだとき、
たまたま話題が登山に及んだ。
山登りが大嫌いなJ.C.、

「夏ならともかくこの寒い時期に
 好き好んで山に登るヤツの気がしれないネ。
 重い荷物を背負ってさァ、
 吹雪ん中に飛び込むようなもんだろう?
 第一、残った家族が家で心配してるだろうに―」

こう言い放ったものだった。

今宵はいたわり、励ましてやるしか手立てがないや。

=つづく=

「呑喰処 一福」
 神奈川県横浜市南幸1-2 狸小路
 045-411-0129