2013年1月28日月曜日

第500話 ここは横須賀 (その3)

ホームグラウンドではないから断定はしかねるが
おそらく横須賀で唯一無比のシブい酒場「銀次」にいる。
しこ酢は酢よりも塩が効いたタイプながら新鮮で旨い。
スペインバルのボケロネスの真逆をいっている。
願わくばこのイワシ、本わさでいただきたかった。

招徳の燗に切り替える。
佳撰(350円)、上撰(400円)があり、
二級、一級ということなのだろう。
エコノミークラスを愛する者として二級をお願い。

あらためて品書きを見定めると手頃な値段のものばかり。
一番高価なのが刺身トリオの平目・中とろ・鯨で各800円だ。
しこ酢のレベルから察するにかなりの上物が期待できそうだ。
生モノを重ねるのはいやだから店の名物・湯豆腐を半丁で注文。
半丁は250円、一丁ならば400円になる。
添えられた練り辛子が豆腐となかなかの相性である。

カウンターの中は女性スタッフの活躍が目立つ。
向かって左のオバさんは揚げもの担当。
手がヒマになるとすかさず鰹節を削り始める。
それも半端な量でなく、取りつかれたようにひたすら削り続ける。

一人だけ若い娘がおり、この娘が湯豆腐担当。
映画「赤線地帯」に出てきた半玉の川上康子に
とてもよく似た面立ちをしている。
大量の豆腐が煮えている大きな利休鍋の前にスックと立ち、
うれしそうに鍋の中をのぞいている。
(ここはワタシだけの宇宙なのヨ)―とでもつぶやくように。

仮にヤスコ嬢としておこうか・・・。
「銀次」での役割も映画の康子にそっくりで
ベテラン勢の補佐に徹している。
電話が鳴ったら豆腐を放り出して奥へ走ったから
電話番もこの娘の受持ちらしい。

やたらに注文が入るモツ揚げ(300円)が気になりだした。
くだんの削り節オバさんが忙しそうに立ち働いている。
かなり細身の人で、まさに「細腕繁盛記」でありますな。
しっかし常連がこれだけ頼むモツ揚げ、
まずハズレはなかろうと流れに乗ってみることにした。
ついでにホッピーの白をお願いする。

見ているそばからモツの小片が
次々と揚げ油の中に投入されてゆく。
焼きとん店じゃないから、豚ではなく鳥モツであろう。
ハツやレバーや砂肝が均等に入っていたらうれしいナ、
そんなことを思いつつ、待ってるところへ熱々が手渡された。

アレレ、十数片はあるモツの小塊はすべて砂肝じゃないのっ!
どこを食べてもコリコリ、コリコリ、
これってあんまりうれしくないんですけど・・・。
意気消沈して周りを見渡すと、単独客が少なくない。
しかも文庫本を読みふける輩(やから)が数人。
(オイ、オイ、本なんかウチで読めや!
 店が迷惑するじゃねェか!)
八つ当たりの矛先を他人に向けるJ.C.でありました。

オマケに帰り道が遠いんだよォ! 
 ♪ ここはヨコ~スカ! ♪
百恵よ、今、キミはシアワセかい?

=おしまい=

「銀次」
 神奈川県横須賀市若松町1-12
 046-825-9111