2013年1月31日木曜日

第503話 狸小路の一夜 (その3)

傷心の友を伴い、
横浜駅のコンコースを狸小路とは反対側に出た。
こちら東口では日本一有名なシウマイ屋、
「崎陽軒」の本店ビルが雄姿を見せている。
館内には本格中華からトラットリアにティーサロンまで完備され、
地下にはビアレストラン「亜利巴゛巴゛(アリババ)」がある。
駅そばにあって、ここの地下は実に使い勝手のよい店だ。

向かったのはそのちょいと先、酒屋の角打ちだった。
数年前に雑誌の取材で訪れた「キンパイ酒店」である。
そういえば、あのときは1ヶ月のあいだに
50軒以上の酒屋を回ったっけ・・・。
都内の角打ちをすべて制覇し、
はるばる横浜や鎌倉まで出張っていったっけ・・・。
シンドかったけど、楽しいミッションだったなァ、いや、懐かしい。

お通夜帰りに酒屋の角打ちでもないものだが
相方のふるさとの北国にまずこんなシステムはなかろうから
一度連れて来てやりたかったのだ。
案の定、特異な空間に目を丸くして興味津々の様子である。

なかでもこの「キンパイ酒店」は
柄沢酒店(小石川)、久米屋酒店(護国寺)、枡本酒店(池袋)、
松井酒店(御徒町)、淀屋酒店(南千住)、玉川屋酒店(浜松町)、
丸辰有澤商店(芝)、内田屋 西山福之助商店(芝)、
大平屋酒店(品川)、飯田屋酒店(鮫洲)
などと並び、気に入りの1軒だ。

相変わらず無愛想(悪いヒトではない)な店主が
鎮座まします前のケースから抜き取ったのは
金盃のコップ酒と缶酎ハイ、それにつまみの柿ピーナッツ。
店内は近隣のサラリーマンで八分の入り。
活気にあふれてはいるものの、秩序はちゃんと保たれている。

極力、雪と山のハナシは避けて
もっぱらご当地・横浜や鎌倉・横須賀あたりの飲食店のガイダンスを施す。
話しているうち、鎌倉は由比ガ浜にあって
川端康成や田中絹代が愛した鰻屋「つるや」に行きたくなってきた。
ほとんどの客が鰻重を注文するが、J.C.はここのかつ丼と天丼が好き。
どんぶりモノが上手な鰻屋を「つるや」以外に知らない。
暖かくなったら案内することを約し、狸小路にきびすを返す。

気に染まない店名の焼き鳥屋「お加代」に初めて入る。
焼き鳥屋よりも小料理屋みたいな屋号だヨ。
名も知れぬ燗酒を酌み交わし、軽いジョークを2、3発。
元気が出てきた相方の口元から笑みがこぼれるようになった。

ところがどっこい、そばにもっと元気なヤツがいやがったぜ!
隣りの常連と店主がうるさいのなんのって!
われわれ二人の頭越しにくだらねェ冗談言い合って
その都度バカ笑いするもんだから、いかんともし難い。
結局は薬局、焼き鳥もそこそこに河岸を替える破目に陥った。
世の中まったく、バカにつけるクスリはございませんな。
焼き鳥屋なら焼き鳥屋らしく、静かに焼き鳥、焼いてろっつうのっ!

「キンパイ酒店」
 神奈川県横浜市西区高島2-13-6
 045-441-5065

「お加代」
 神奈川県横浜市西区南幸1-2-2
 045-311-2094