2013年1月4日金曜日

第484話 2匹のブルドッグ (その2)

1匹目のブルドッグは品川区・大井町にいたが
2匹目のブルドッグは江東区・森下にいた。
こちらは「キッチン ブルドック」を名乗っている。
やはり「ブルドッグ」ではなく、「ブルドック」だ。

大井町から数日経った夜だった。
この夜の相方はみちのくから出張して来たR子サン。
洋食屋に乗り込む前につき合わせたのは
同じ江東区は木場の「河本」である。
今でも書店に並んでいる「東京冬ごはん」で
煮込みに関わる執筆をすべて引き受けたため、
連夜の煮込み責めに四苦八苦していた折も折、
有無を言わせず、身柄を下町に連行した次第である。

脂身みっしりのもつ煮込みをホッピーで楽しんだあと、
清澄通りをクルマで5分、ブルちゃんに到着した。
実はこの店、初訪問なのである。
門仲方面からだと、同じ並びで数軒手前の天ぷら屋、
「満る善」が大の気に入りだから
「キッチン ブルドック」の存在はもちろん認知している。
でもネ、店先に立つとちょいと引くんですな、これが。
とにかくTVでおなじみのキタナシュラン認定店ですからネ。
したがって森下の洋食ならば、「深川煉瓦亭」の利用が多かった。

とまどいを見せる相方の背中を押すようにして入店。
カウンターだけの狭い店内は雑然としている。
奥にスペースがあるにはあるが荷物置き場と化している。
切盛りは中年夫婦二人だけの様子だ。

ハンバーグが自慢と聞いてはいたものの、
まずは慎重にメニューの吟味から―。
穴子フライが最初に目に飛び込んできた。
天ぷらはどこでもあるけれど、ありそうでないのが穴子のフライ。
二人、意見の一致をみてビールと同時にお願いしたら
調理担当のダンナが接客係のカミさんを振り返るではないの。
すると彼女、おもむろに首を横に振るではないか。
売切れだか入荷ナシだか存ぜぬが、とにかく穴子は留守でした。

それにしても食材のアル・ナシは
通常、料理人が把握しておくべきじゃないのかネ。
カミさんが発注責任者なのかもしれないな、ここは。
”婦唱夫随”ってことだろう。
人生、そのほうが上手くいくことも少なくないから、まあ、いいや。

穴子を空振って注文したのはカキフライ。
加えてハンバーグとオムライスである。
生パン粉が香ばしいカキフライはなかなかの揚げ上がり。
その代わり、牛挽きより豚挽き優勢のハンバーグは
自慢の品とは思えぬほど不デキで、二人お手上げ状態。

結局、当夜のベストはオムライスであった。
ベースとなるチキンライスにチキンがたっぷり。
玉ねぎのシャキシャキ感もグッドで
デミグラスのコク味がこれまたけっこう。
ここではハンバーグより揚げモノとオムライスを推したい。

木場から森下へと下町を北上して来たのでここからさらに北へ。
両国ではパッとしないし、寂れはてた柳橋は見る影もない。
どうにか活気を保つ浅草橋のガード下にでも流れるとしましょうか・・・。

「キッチン ブルドック」
 東京都墨田区千歳3-1-11
 03-3633-1861