2013年4月3日水曜日

第547話 風さそう 花よりもなお・・・ (その1)

今年の春はヘンな春。
桜は咲き急いで散り急ぎ、早くも東京を通過していった。
芭蕉が詠んだ”花の雲”の下で
人々が宴を催したあとに空模様は花曇りから花冷えへ。
こんな春はトンと記憶にございませぬな。

マイ・フェイバリット・ブロッサムの沈丁花にしたって
例年通り都内をあちこち散策しているのに
嗅ぎ初めは3月9日土曜日のことだった。
これはずいぶんと遅い。
場所は道灌山から田端に向かう千駄木四丁目。
谷根千もここまでくるとハズレのはずれだ。
かぐわしい匂いを今年はほとんど嗅げなかった。

千葉県・内房在住の旧友・N美と花見の段取り。
この人物はたびたび出てくるのでご記憶の読者もおられよう。
最近では第490話の「東京だよママさん」にご登場願った。

岡山生まれが千葉に嫁いできたわりに
東京の街をまったく知らないのが彼女だ。
桜の名所にしたって上野・浅草はおろか
九段・新宿・目黒・王子、どこへも行ったことがない。
実に哀れをさそう。

憐憫の情につまづいて
キレイな桜を見せてやろうという気になった。
よって都内屈指の桜並木を誇る小石川は播磨坂にご案内。
地下鉄丸の内線・茗荷谷駅の改札で待合わせ、
目の前のスーパーマーケット「Santoku」で
調達したのは缶ビールに赤ワイン。
酒の友はローストビーフと多彩なチーズの袋詰めだ。

播磨坂へはほぼ毎年来ている。
昨年は肌寒い夜で、坂をひと降りしたあと、
角打ちの「柄沢酒店」に駆け込んで暖をとった。
もっとも飲んだのは冷たいビールだったけど・・・。

花見客であふれるなか、
何とか坂の中ほどにスペースを見つけ、しばしの花見酒。
相方が歓んでいるのが何よりだ。

そこへ突然、民主党の幹事長が現れたものだから
ミーハーの相方が色めき立った。
政治に無頓着でも”モナちゃんとチューしたヒト”はご存知だった。
道行く人々と握手を交わす姿を見てこちらはそっちのけ、
彼のもとに走って行っちゃったぜ。
やれやれ。

播磨の坂では1時間と少々を過ごし、散歩を始めた。
小石川植物園を抜け、春日は西片の交差点から本郷菊坂へ。
湯島天神に詣でて男坂を降り、天神下の交差点で北に左折、
やって来たのはちょくちょく訪れる不忍池だ。
池畔に桜花咲き乱れ、水面(みなも)に水鳥が遊ぶ。
むろん相棒がこの池を目にするのは初めてのことである。

=つづく=