2013年4月17日水曜日

第557話 七面鳥を慕ってる (その2)

今は昔、J.C.が若かりし頃の配膳係時代。
ホテルの結婚披露宴の正餐における七面鳥が
厄介だったというハナシのつづきだ。

とにかく若鶏なんかと違って重いの重たくないの。
プラッターに半羽がドンと乗っているのを左手で支え、
右手に持ったサーバーでサーブしてゆくわけだ。
だいたい10人前を一気に持ち回るが
ときには11~12人前になることもあった。

自分でいうのもなんだが、こう見えても(見えてないってか!)
現役時代はなかなかのギャルソンぶりで
けっこうスマートなサービスをしたものである。
よって披露宴ではメインテーブルを任されることがほとんどだった。

最初にひな壇上の新婦と媒酌人令夫人。
壇を降って新婦側の主賓とその卓の同席者の順で
料理を皿に盛付けてゆく。
ずっしりとした七面鳥には
ガルニテュール(付合わせ)もふんだんに盛込まれており、
慣れない頃は8人目あたりになると、
左腕はしびれ、額には脂汗がにじみ出してくる。
外科手術の執刀医みたいに
汗をぬぐってくれる看護婦などいるわけもない。
まあ、そんな苦い思い出が詰まった七面鳥なのだ。

それでは表題にあるように
何がどうして七面鳥を慕うようになったのか?

ここでいきなり舞台はJR中央線・高円寺へと飛ぶ。
老婆心ながら書き添えておくと、これは”こうえんじ”と読みます。
”たかまどのてら”ではけっしてありません。

駅でいえば新宿から行って中野の一つ先、阿佐ヶ谷の一つ手前になる。
駅名になったくらいだから当然、高円寺なるお寺がある。
宿鳳山高円寺は曹洞宗の寺院で開山は1555年。
時代降って徳川幕府三代将軍・家光ゆかりの寺ともなった。
禅宗にくみする曹洞宗の本山は福井の永平寺と横浜・鶴見の總持寺。
總持寺は石原裕次郎の墓所としてつとに有名だ。

若者の街・高円寺は線路の北側がざわついているものの、
南口はお寺のご利益(りやく)か、落ち着いたたたずまいを見せる。
東京都民なら一度や二度は高円寺を訪れた経験がおありだろうが
意外にも寺院の存在はあまり知られていない。

おしなべて禅寺は涼やかな表情をしており、高円寺も例外ではない。
もみじの並木と竹笹の緑に抱かれて
しばし都会の喧騒を忘却の彼方に押しやってくれる名刹である。
お寺に愛着を感じるほうではないけれど、大好きだ。
ただし、座禅は遠慮しときますがネ。

名刹のすぐそばに、いや真ん前といってもいいくらいのところに
一羽の七面鳥を見初めたのはおよそ一年前であった。

=つづく=