2013年4月11日木曜日

第553話 ひとりわが家で食うメシは (その1)

上野の山下、不忍池は三分割されていて
それぞれ蓮池・ボート池・鵜の池という。
鵜の池のほとりでガンとしばし戯れたあと、
出口専用の弁天門を出た。
すぐ近くに弁財天があるから弁天門。

蓮池づたいに歩いて上野広小路に出た。
もうちょいと東に行けばJR山手線の高架にぶつかり、
ガード下を中心に多くの飲み屋が軒を連ねている。
立ち飲み処が値段の安さを競い合って庶民には歓ばしい限り、
何せ、ビール大瓶が390円なんて店があるんだから―。

そうだ、一杯飲る前に魚のデパート「吉池」をのぞいてみよう。
御徒町駅北口前の店舗はただ今、建て替え中、
南口の仮店舗で営業している。
半分ほどの広さになったから扱う品数は減ったものの、
並みの鮮魚店では太刀打ちできない品揃えを誇る。

かにコーナーで珍しい蟹を見つけた。
北海道産の栗蟹である。
毛蟹によく似ているが四角い毛蟹に比べてこちらは五角形、
栗のカタチをしている。
似ているのも道理で毛蟹の別名は大栗蟹。
食味も毛蟹にそっくりなのに値段はずっと安い。
特にこの日のモノは小ぶりで蟹とは思えぬ値段だ。
そのぶん食べるのに手こずること間違いナシ。
でも、ここで逢ったが百年目、見過ごすことはできない。

なおも店内を鵜の目鷹の目でウロウロ。
春を告げる富山湾の蛍いかが出回りだした。
蛍いかはまず、兵庫産のモノが店頭に並び始める。
味は富山に到底かなわない。
しっかし不思議だねェ、富山と兵庫で獲れる蛍いかが
両県にはさまれた石川・福井・京都のモノはまったく見ることがない。
市場に出なくとも地元では地産地消しているのかな?

刺身用赤貝の色つやがよろしい。
産地は韓国でも見た目は国産モノと遜色がない。
宮城は閖上(ゆりあげ)産のように
油絵を思わせる濃密な色彩感には欠けても見るからに美味しそう。
蟹・いか・貝と、買いたいものだらけになってきたゾ、やべエ。

蟹は調理とさばきに手間ひまが掛かる。
J.C.は活きた毛蟹を絶対に茹でない。
必ず蒸すから余計に面倒だ。
とにかく”茹で”と”蒸し”では仕上がりに雲泥の差が生じるからネ。

蛍いかと赤貝は見送り、栗蟹だけを確保し、
一晩活かしといて翌日蒸し上げようか・・・。
でもなァ、活きた蟹をぶら下げて飲み歩くのもなァ。
サカナ屋の片隅で思案投げ首である。

=つづく=