2013年4月24日水曜日

第562話 迷ったときは日本そば (その1)

このところ昼めしにチカラが入らない。
昼にガッツリ食べると晩めしというか
実質は晩酌なんだが・・・悪い影響が出てしまう。
なので、軽めに抑えるようにしている。
となると、お世話になるのは麺類だ。

その日は北千住にいた。
駅西口のメインストリートと十文字に交差する商店街は
北側が宿場町通り、南は本町通りと別の名を名乗る。
その界隈を昼めしを求めてウロウロしていた。

宿場町にはこの街のランドマークの大衆酒場「大はし」、
銀座の高級焼き鳥店「バードランド」から枝分かれした「バードコート」、
近頃建て替えられてしまった槍かけ団子の「かどや」などがある。
一方の本町には有名店がまったくない。
孤軍奮闘の婆ちゃんが作る牛すじ煮込みが旨い「葵」、
レトロでキッチュな洋食店「ニューあわや」があるくらいだ。

これといった的を絞れないまま、本町通り商店街に独り。
店頭のメニューがシッチャカメッチャカな日本そば屋の前で立ち止まる。
迷ったときには日本そばがいちばん無難。
でもねェ、山賊そばとか海賊そばなんてキワモノを見せつけられると、
たじろぐというより、シラケちゃうんだよなァ。
まっ、いたずらに時間を浪費しても仕方がない。
入店に勇ましい決断を必要としない点もそば屋のいところだ。

暖簾をくぐった。
ややっ! 4月も中旬にならんとするのにかきそばが生き残っている。
かきそば・・・もちろん牡蠣そばのことだ。
壁の品書きには750円とあった。
かきフライ定食(850円)もやってるじゃないか。
でもネ、他店と比較してずいぶん安くないかい?
ダイジョウブだろうか?

胸の奥に疑念が湧いたものの、
そこは無類のかき好き、すぐに払拭して注文した。
本当はかきせいろが食べたかったが
温かいつゆを張ったかきそばしかない。
妥協を余儀なくされた。

隣りの卓は家族四人ののどかな食事風景。
両親が天ざるで子ども二人は素っ気ないもりそば。
これでいいんじゃないの、正しい一家団らんの姿なんじゃないの。
子どものうちから天ざるなんか食わしちゃいけないヨ。

横目でちらちら観察する間にかきそばが出来上がった。
うわっ! デカッ!
小麦粉をはたいてサッと揚げた大粒のかきが5粒も乗ってる。
あまりのデカさにそばが隠れて見えないや。
都心のあざといそば屋なら1750円は取られるゾ。
どうみたって適正価格は1400円であろうヨ。
それが半額近い750円とは! 
しかもみっちりプックリ、身肉はきわめて良質だ。

帰り際に気がついたが、この「柏屋」の創業は明治37年。
げっ、日露戦争が勃発した年じゃん!
これはお見それしちゃいやしたネ。
明治の老舗の底力に、深くこうべを垂れるJ.C.でありました。

=つづく=

「柏屋」
 東京都足立区千住2-32
 03-3881-2807