2013年4月4日木曜日

第548話 風さそう 花よりもなお・・・ (その2)

その日は桜を求めて文京区から台東区へ。
上野において桜花を愛でるならば
お山で宴会を張るよりも池畔をそぞろ歩くのがよろしい。
風情が段違いですもの。

ここ数年、不忍池で幅を利かせている水鳥はユリカモメとオナガガモ。
そして黒子に徹しているためにあまり目立たないが
けっこうな数を誇るのがキンクロハジロ。
キンクロは池の愛嬌モノ

うれしいことに今年はマガモの姿が目立つ。
マガモのオスの美しさはカモの中でもナンバーワンだ。
他の水鳥より警戒心が強いために
めったにお目に掛かれないバンも例年より多い。
聞きなれない鳥の名は見なれない漢字で鷭と書く。

小柄な鷭は江戸の昔、美味の象徴だった。
江戸のうまいものを三鳥二魚と称した。
内訳は雲雀・鷭・鶴の三鳥、鯛・鮟鱇の二魚である。
鴨が鳥になく、河豚も魚にいない。
それにしても江戸のお大尽、魚は今と変わらぬが
トンデモない鳥を食べてたんだねェ、ビックリしちまうヨ。

池づたいに歩いた二人は弁財天のお堂にやって来た。
短い参道に屋台が軒を連ねている。
年を経るごとに屋台で商う食べものが多様になった。
「なんか食べたいモンあるかい?」
「うん、チヂミが食べたい」

チヂミのついでにドネルケバブも買い求める。
トルコ由来の垂直あぶり削り肉だが
日本ではオリジナルの羊肉に出くわすことはほとんどない。
ビーフかチキンのどちらかに限られる。
よりマトンに近いビーフを選んだ。

弁財天前の野外カフェで生ビールを買い、
残りの赤ワインとともに購入した物品を味わう。
桜海老入りのチヂミはもったりした生地が許しがたく不デキ。
ピタパンにキャベツと一緒に肉をはさみ、
ヨーグルトソースをかけたケバブは殊のほかグッドだ。

屋台のケバブを買うのは
ロンドンの街頭のスタンド以来だから実に38年ぶり。
今でこそ世界を席巻するドネルケバブは意外と新しい料理で
本場・イスタンブールに現れたのが1940年代だという。

かなりの距離を歩き、相方はさすがにへばり気味。
歩くのはもうたくさんのご様子だ。
なおも散策を続けるのは酷というもの、
上野から日本最古の地下鉄・銀座線に乗り込み、浅草へ。
昭和2年、最初に開通したのがまさしくこの上野―浅草間であった。

=つづく=