2013年4月19日金曜日

第559話 七面鳥を慕ってる (その4)

昭和30年代のまんま、時空がとまった「七面鳥」。
類いまれなる酢豚に出会ってひと目ぼれの巻である。
なんつったって魅力の根源は主役の豚肉だ。
素材の質、火の通し、味付け、三拍子揃えられちゃうと、
食べ手としてはシャッポを脱ぐ(死語ですな)ほか手立てがない。
ひと言で表現すればロースとんかつのブツ切りに
野菜の甘酢あんかけが掛かっているカンジかな。

コレを書いていてキラリひらめいた。
近々、わが家でこしらえてみよう。
いえ、家で揚げものは難儀やから
近所の精肉店でロースかつを揚げてもらい、
アンだけ自分で作ってかつブツにぶっかけてみよう。
パン粉のコロモは酢豚本来の姿と異なっても
けっして大きくは外さないと思う、その点は自信がある。

以来、中野・杉並方面に来ると、立ち寄るようになった。
直近の訪問は先週のことだ。

 ♪ 気軽に飲める店は多いし
   気の合う仲間も沢山いるから
   私はこうして 東高円寺
   このやすらぎにひたっています
   近頃なぜか寝つかれないのは
   あなたを思い出したせいでしょうか ♪
           (作詞:吉田健美)

ピンキーとキラーズのピンキーこと、
今陽子がソロで歌う「東高円寺」の二番だ。
今陽子&ピンキーとキラーズ全曲集のCDを聴いていて
この曲が耳に残った。
アップテンポのちょっぴりホロ苦いラブソング、
今も書きながら聴いている。

そんなこって当夜は地下鉄丸の内線・東高円寺から歩いた。
誘ったのはその日、高円寺で仕事をしていたN藤サン。
普段は地方にいるが
新規事業の立上げで月に1~2度は上京してくるようになった。

例によってビールを抜くとオバちゃんニッコリ笑い、
カボチャの煮付けと飛竜頭のあんかけを出してくれた。
飛竜頭というのは上品ながんもどきのことだ。
お願いしたのはもちろん必食の酢豚。
そしてN藤サンご所望の木耳(きくらげ)玉子炒め。 
自分ではまず注文しない木耳ながら
口元に運んで先ほどのオバちゃん同様ニッコリ。
この料理も推奨品のリストに加えておこう。 

必殺の酢豚を食べて感無量となった相方には
昔ながらにケレンのないラーメンをすすってもらい、お勘定。
とここまで書いて一度は=おしまい=と締めたのだが
2時間半後にDVDで観たのが
東映映画「ひばり・チエミの弥次喜多道中」(1962年)。
映画はラストシーンの1カット前、京都は鴨川のほとりである。

あるときは乞食坊主の法界坊、
またるときは麻薬密売団に潜入する密偵、
しかしてその実体は南町奉行・筆頭与力、秋月七之丞。
扮するは中村錦之助と並ぶ東映時代劇の二枚看板、東千代之介だ。

与力に向かい、チエミ演ずる江戸寶楽座の下足番・おとしが言い放つ。
「ずいぶんしょっちゅう変わるのネ、七面鳥みたいだワ」―
アハハハ、つい楽しくなって一筆書き添えた次第であります。

=おしまい=

「七面鳥」
 東京都杉並区高円寺南4-4-15
 03-3311-5027