2013年8月7日水曜日

第637話 魔がさして御徒町 (その3)

♪  合羽からげて 三度笠
  どこを塒(ねぐら)の 渡り鳥
  愚痴じゃなけれど この俺にゃ
  帰る瀬もない
  伊豆の下田の 灯が恋し  ♪
     (作詞:清水みのる)

本日の幕開けは三波春夫の「雪の渡り鳥」にござんす。

てなわけで飛び込んだのが「かっぱ寿司1号店」だった。
歌とどうつながるんだ! ってか?
へへ、出だしの”合羽(かっぱ)”、
それだけのお粗末にござんす。
もっとも鮨屋のほうの”かっぱ”は”河童”だろうがネ。

店内は両サイドにつけ台が備え付けられ、
広さのわりにキャパはそこそこ。
腰を落ち着けたのは左側の真ん中あたり。
両脇との間隔が狭くてきゅうくつだ。
まっ、大衆店につき、あまり文句は言えない。

「お飲みものは?」―こう訊かれたら
鮨屋に来て飲まないわけにはいきません。
取りあえずビールの大瓶をお願いした。
するとビールの到着前に置かれたのがマグロブツのヅケ。
それも突き出しにしちゃあ相当な量だ。
職人さんが一つかみ、皿の上にザバッと盛ったから
漬け込み汁がランチョンマットにパッと飛び散った。

(オイ、オイ、ちと乱暴じゃないかい?)
口には出さず、言葉を飲み込み、胸ポケットのティッシュで拭う。
やれ、やれ、いきなり拭き掃除かヨ。
職人に悪気はないのだが、こういう雑なシゴトは嫌いだ。
仕方ないなァ、入店した以上、腹をくくるしかないってこった。

ビールは好きな銘柄で一安心。
ところがブツには大不満、かなりのスジッぽさである。
物事のスジを通すのはいいがマグロのスジは通してほしくない。
量も量だし、これで300円は取られるんだろうな・・・いや、500円か?
鮨屋にせよ、居酒屋にせよ、
突き出し、お通しの悪しき慣習は日本特有のもの、
外国人には受け入れられまい。

おまけにわさびを添えてくれなかった。
すかさず所望したものの、
わさびくらい言われなくてもスッと出しておくれヨ。
当然のことながら、わさびは”粉”で久々のご対面だ。
つけ台の下に収めた「吉池」のレジ袋には生わさびが入っている。
”生”があるのに”粉”で食わなきゃならない不条理ヨ。
このコンフリクト、
「異邦人」のアルベール・カミユなら判ってくれるでしょう。

=つづく=