2013年8月26日月曜日

第650話 八月の油蝉 (その1)

ある朝早く、快適な目覚めを迎えた。
珍しくも飼い猫のプッチが”めしよこせコール”を怠ったからだ。
耳元でニャア、ニャアとやられたひにゃ、
おちおち寝ちゃいられないんだな、これが。

名前を呼んでも応えがない。
また家出でもしたんかいなと、胸騒ぎを覚えて起きだした。
すると、いました、いました、
独りベランダ越しに外を眺めていやがった。
視線の先には1羽の雀
ふ~ん、雀かい。
何年か前、門前仲町の富岡八幡宮の裏手で
雀をくわえた野良猫を見たことがあった。
捕らえられたばかりの雀はまだ猫の口元で羽をパタパタやっていた。
あれにゃ驚きましたネ、超リアルだったもの。
猫ってのはすばしっこいから
ねずみだけでなく雀まで捕まえるんだねェ。

そうこうするうち、陽にあたって気持ちよくなったのだろう。
ひっくり返って居眠りを始めやがった。
おい、リラックスしすぎだろうヨ
実に平和な朝のひとときである。
思わず口ずさんだのは

 ♪  あなたの面影 だきしめながら
   目ざめる朝の 私は幸福よ
   愛してみて 愛してみて
   はじめて わかるのね
   あなたのもとへ 届けたい
   やわらかい 朝のくちづけ ♪
      (作詞:有馬三恵子)

好きだなァ、伊東ゆかりの「朝のくちづけ」。
さっそくyou tubeで聴きながらコレを書いている。
もう真夜中なんだけどネ。

この人はなんともいえずに艶のある声をしている。
ちょっと甘ったれて男心をくすぐるような声音。
見てくれだって、もういいお歳なのにじゅうぶんかわゆい。
なんかデビュー当時のティーンエイジよりも今のほうが素敵だ。

これは女性歌手にとってきわめて稀有なことではなかろうか。
いや、歌手に限らず女優でもスポーツ選手でも一般人でも
まことに珍しい現象と言わねばならない。
つい先日、寅さんの町・柴又の駅で電車を待っていたら
1枚のポスターが目にとまった。
どれどれ、オヤ、この秋、下町で彼女のコンサートが開かれる。
生で聴いたことがないから思い切って出掛けてみようかな。

おっと、ウチの猫のハナシだった。
小一時間もするとヤツは目覚めた。
雀に刺激されたものか、遊びの相手を求めてジャレついてくる。
眠っていたハンターの血が騒ぎ始めたんだネ。

=つづく=