2013年8月8日木曜日

第638話 魔がさして御徒町 (その4)

その日の正午前、御徒町は「かっぱ寿司1号店」にいた。
スジッぽいマグロブツと粉わさびに
多少なりともストレスを感じていた。
それでも暖簾をくぐった以上、前進あるのみだ。

壁の貼り紙に開店から夜8時までにぎりはすべて半額とあった。
手元のメニューの値段表記は1カン分だから
半額ということは2カンでその値段になる寸法。
8時以降は存ぜぬが、この時間の注文は2カンづつだった。
久しぶりのミニマム2カン鮨である。

皮切りは小肌。
確か130円か150円じゃなかったかな・・・もちろん2カンでネ。
箸でつまんでパクリとやった。
おっ、悪くないじゃん、そこそこイケるじゃん。
予想を上回る小肌クンであった。

その代わり、箸休めの漬け生姜がいただけない。
モロにクスリ臭さが口中に拡がった。
あわててグラスのビールをグイッと。
ジンジャーよ、さようなら、もうお会いすることはないでしょう。

お次は一番安いタコにした。
サバも同値であったがヒカリものは小肌だけでじゅうぶん。
タコはまあ、まあの及第点、産地は西アフリカのモーリタニアだろうな。
生の北海道産水ダコもいたけれど、水ダコはにぎりに向かない。

”スジ金入り”のブツのせいでマグロは食う気になれないし、
鮨種のケースを見回して、真正面にいたたら子に目がとまる。
つい最近、「アナタはたら子派? 明太派?」で扱ったおかげもあろう。
昼めしどきだし、たら子のおむすびのつもりで食っちゃおう。
海苔で巻かれた軍艦だろうし。

ところがここで外した。
予想通りに軍艦巻きで登場したものの、肝心のたら子がふにゃり。
真子自体はそれなりのサイズなのに中身の粒が細かすぎる。
未熟卵とは言わないまでもこれでは舌がたら子の醍醐味を感知しない。
たら子は粒々がイノチだぜ。

ことここに至り、大衆鮨店を選んだ自分を責め始める。
まっ、何かのはずみでたまたま魔がさしたと思えばいいか―。
精神の安定には気持ちの切り替えが何よりも大事です。

当日の夜は日本そば屋で小宴会。
真っ当な酒と料理が待っている。
夜をより楽しむためにも腹八分目にしておこう。
すでに6カン食べたからラスト2カンで切上げよう。

J.C.の場合、鮨屋におジャマして
ヒカリものと煮ものを食べずして会計に及ぶことはまずない。
この2点を試さずして職人の力量は推し量れない。
そこで最後のチョイスは煮ものからということになる。

=つづく=