2013年8月16日金曜日

第644話 だんだんよくなる玉子焼き (その1)

 巨人 大鵬 玉子焼き  
初めて耳にしたのは小学生の頃だったかな?
誰が言い出したものか、
事実、当時の子どもたちには三者三様、大人気であった。

ところがヘソ曲がりのJ.C.は少々趣きを異にしていた。
 巨人 オムレツ 房錦  
これがおのれのフェイヴァリット。
読者の中に褐色の弾丸・房錦を覚えて
あるいはご存じの方がおられようか。
ほとんどおられまい。

房錦の最高位は関脇どまり。
典型的な押し相撲は白色の弾丸・富士錦と並び称せられたものだ。
房錦は通好みの力士だった。
人気の秘密は横綱・大鵬に滅法強かったこと。
いつの世にも判官びいきはいるもので
大鵬を倒したときなどはやんやの喝采を浴びていた。
それもたびたびネ。

玉子焼きの代わりにオムレツ好きというのもキザなガキである。
第一、子どもらしさがない。
でも、好きなものは好きなんだから致し方ない。
炒めた挽き肉と玉ねぎを包み込んだオムレツは
それこそ物心ついたときからの大好物。
母親の言うことには雨が降ろうが槍が降ろうが
このオムレツが食卓に並んでいると、いつもゴキゲンだった由、
その偏愛ぶりは相当のものだったらしい。

実は玉子焼きもオムレツに負けず劣らずの好物ではあった。
ただし、こちらは遠足や運動会の弁当のおかずとしてだ。
玉子焼きは冷めてもイケるがオムレツは焼き立てに限る。

玉子焼きといえば、真っ当な鮨屋で玉子を頼まぬことはまずない。
たまに飲み過ぎて忘れることがあるにせよ、
ヒカリものの小肌、煮ものの穴子とともに
”必食アイテム御三家”であることにいささかの陰りもない。

J.C.は関西風の出し巻きを好まず、
白身や海老のすり身と合わせて焼くカステラ風が好き。
何たって鮨屋における江戸前シゴトの極みの一つがこれだ。
よく、つけ台に着いたと思ったら
ビールと同時に玉子を所望する客を見受けるが
こちらは逆に野暮天の極みだ。
にぎりをいきなり中とろや大とろで始めるに等しい。
お里が知れるというものだ。

他人様(ひとさま)の所業をとやかく言うのも無粋だが
鮨屋においては鮨屋における流儀と作法があってしかるべき、
みっともない真似はしないに越したことはない。
ものを食うときにはその人の品性があからさまに現れるからねェ。

=つづく=