2013年8月13日火曜日

第641話 塀の外の飽きない面々 (その1)

たら子つながりで、造り醤油屋から大衆鮨店に流れたが
此度はウミヘビつながりで鮨屋から刑務所へ移ってみたい。
いや、正しくは拘置所で
べつにJ.C.が入所したわけではないけどネ。

その日は日曜日。
墓参がらみでこの5月に偶然見つけた、
「綾瀬飯店」のシンプルにして奥の深いラーメンがまた恋しくなった。
一杯のラーメンのために乗り込む地下鉄・千代田線である。

初訪問ではガラガラの店内に
その行く末を案じたものだが
この日はすべての卓が守備よく埋まっていた。
とは言っても四人掛けに一人のテーブルもあって
満員御礼にはほど遠い。

ラーメン以外ののメニューも試してみたいと思いつつ、
結局は薬局、ラーメンを注文しちゃうのだ。
近所にあれば昼めしに晩酌に
ちょくちょくおジャマしてさまざまな料理を楽しめるのになァ。

うん、やはりここのラーメンは卓抜至極。
普段は小松菜の青ミが、この日は珍しくほうれん草だった。
元来、これが中華そばのどんぶりを飾る
レギュラーの一員であるハズ。
なのに近年はほうれん草は庶民の味方でなくなった。
けっこうな値段だもの。
草葉の陰でセーラーマンのポパイも嘆いているに違いない。
いや、彼はまだ生きているのかな?

食べ終えて表に出たらギラギラと太陽がいっぱい。
それでも気温は30度そこそこだろう。
まだまだ猛暑日には届かない。
常人はいざしらず、暑いの大好き人間にとっては
絶好の散歩日和りであるまいか。

取りあえず北千住あたりまで踏破しようかの。
綾瀬川を渡り、小菅の町に入った。
小菅といったら第一に東京拘置所である。
住民の方々にはまことに申し訳ないが
ほかには何もない退屈な町だ。

あれは10年も前だったか、界隈を散策したことがあった。
拘置所の裏手に淀んだ水をたたえた小さな掘割りがあり、
不忍池みたいに真鯉が泳いでいたっけ。
時間のせいか日当たりが悪く、ちょいと不気味な感じがしたものだ。

渡河してしばらく、その掘割りに行き当たった。
戦国の世以来、日本の城の濠は敵の侵入を防いできたが
ここのは脱獄防止に一役買っているのだろうか?
さした幅もないからそうではあるまい。

=つづく=

「綾瀬飯店」
 東京都足立区綾瀬2-23-20
 03-3603-9948