2013年8月28日水曜日

第652話 羊の串にかぶりつく (その1)

JR山手線・神田駅のガード下に
東北料理を食べさせる店があると聞き、心惹かれた。
東北といってもみちのくではなくて中華人民共和国の東北地方。
旧満州ということになる。

そういえば「週刊現代」の巻末ページに
「人に教えたくなる店 私のベスト3」というコラムがあり、
作家の角田光代サンが推奨していたっけ。
店の名は「味坊」。
これじゃ名が体を表していないし、第一、あまりに素っ気ない。

東北つながりで宮城県から上京してきたのみともと連れ立って訪れた。
サッポロ黒ラベルで乾杯し、
最初にオーダーしたのがフライドポテトと叉焼と香菜を合わせた一品。
これには別盛りで香菜を1皿お願いする。
タイ語でパクチー、英語はコリアンダー、スペイン語ならシラントロ。
フレンチはコリアンドル、イタリアンはコリアンドロ、じゃあコリアンは?
そう訊かれてもそこまでは知らない。

肝心の料理だが、別段、相性がよいとも思えない3種の食材が
妙にシンクロナイズして相乗効果を発揮する。
ビヤホールへ行っても、まずフライドポテトを頼むことなどないのに
ポテト好きの相方に合わせたおかげでご利益(りやく)を賜った。
いや、驚きましたネ。

そして目当ての羊肉串。
これはラム肉の串焼き、いわゆるバーベキューだ。
5本で1000円が10本だとかなり割安の1600円。
しかし10本はいくらラム好きの二人でも荷が重すぎる。
ほかの料理が入らなくなっちゃうヨ。
ここはおとなしく2本半づついただくこととした。

紹興酒と迷った挙句、今宵の決断は赤ワイン。
だって案内されたテーブルがワインケースの真ん前なんだもの。
ワインは一律1ボトル2500円で客が手に取って選ぶシステム。
ケースのそばは便利だけれど、
ほかの客が入れ替わりやって来てちょいとばかりうっとうしい。

選んだのはドイツのシュペートブルグンダー。
いかめしい名前ながらなんのことはない、ピノ・ノワールである。
ドイツの気候は寒冷にすぎ、カベルネ系では塩梅が悪いのだ。
このワインがかぶりついた羊肉にピタリと寄り添った。
満洲料理にドイツワインかァ・・・。
思いもよらぬコンビがハーモニーを奏でてくれたヨ。
いいじゃん、いいじゃん、このお店。
こうなると素っ気ない店名すら気にならなくなってくる。

芋も豚も羊も食った。
羊はあと1~2本づつイケちゃいそうだ。
10本にしときゃあよかったかな?
いや、いや、それではのちのち禍根を残す、これでいいのサ。
さて、さて、再びメニューの吟味に入ったわれわれである。

=つづく=