2015年12月9日水曜日

第1247話 鯛や鰻の舞踊り (その3)

文豪・夏目漱石が通った鰻屋「竹葉亭」の稿のつづき。

忘れられないのが旧丸ビル1階にあった支店。
建物にとけ込んだ快適な空間で
時間が静止していたものだ。
あんな雰囲気をかもし出す料理店は
今の東京にほとんど残っていない。
 
尾張町で隆盛を誇った「竹葉亭」も関東大震災で焼失する。
その後再建されたのは
往時の面影を残す銀座8丁目の「竹葉亭本店」。
そんな経緯もあり、この稿では本店のほうを取り上げる。
銀座といっても新橋や汐留にほど近い、
人通りもまばらな一郭にあるので都会の喧騒とは無縁だ。
 
宴席なら離れの座敷だが純粋にうなぎと向き合うのなら、
少々狭くとも20席ほどある椅子席でじゅうぶん。
重箱ではなく鰻お丼と称し、
瀬戸物のどんぶりで出してくれるのがありがたい。
 
A(2100円)・B(2625円)とあるうち、
よほどの大食漢でなければAで満足できよう。
うなぎは丁寧に焼かれて焦げ目が一切ない。
懐かしい風味のタレは控えめな甘みをたたえ、
100年以上も使い継がれているそうだ。
 
ごはんはやや固めに炊かれ、
もう1つの名物料理・鯛茶漬け(2100円)でその本領を発揮する。
胡麻ダレ醤油で味付けされた真鯛の刺身をごはんの上に並べ、
ほうじ茶をかけていただくのだが
半量は茶漬けにせずに刺身でごはんを1膳。
残りをお茶漬けサラサラとやるのが上手な食べ方。
銀座店で人気のまぐろ茶漬けが本店にはないのがまことに残念だ。

そんな鰻屋が銀座の真ん中に生き残っている。
しかも閉店の気配など微塵もなく入れ替わり立ち代り、
客がさざなみのように押し寄せて
商勢は衰退の兆しすら見せていない。

更にすばらしいのは酒類を注文する客に運ばれる肝煮。
これがチャージ無料のサービス品なのに真っ当なのだ。
真っ当ならば文句を言わぬが
愚にもつかない突き出しでこっそりと、
二、三百円かすめ取る居酒屋には猛省を促したい。

最初の注文は以下の3品。
上新香(500円)、鯛かぶと煮(900円)、鯛かぶと蒸し(900円)。
J.C.にとって以上の品々は山田・柳田に匹敵するトリプルスリーだ。
うなぎ前の必食アイテムなのであります。

=つづく=