2015年12月21日月曜日

第1255話 奇妙な白子に会いました (その2)

御徒町の「吉池」の鮮魚売り場でボラの白子に初めて出会った。
これが白子でなく真子なら日本三大珍味の一つ、
あの有名な唐墨(からすみ)に大化けして珍重されるが
白子のほうは見たことがない。
商品価値とてなく、廃棄されたり、
漁師さんの賄いにでもなっていたのだろうか?

J.C.は小学生時代に大田区・平和島に住んでいた。
当時の平和島橋の下はまだ埋め立てられておらず、
夏ともなれば多くの釣りバカ、もとい、
釣り人が糸を垂れていたものだ。

ターゲットはボラかハゼ。
水面のウキから目を離して彼方を見れば、
競走馬が走っていたっけ。
平和島競艇場の向こうは大井競馬場。
レースの様子が肉視できたのだった。

時は流れて今度は数年前、東京湾にボラが大繁殖。
神田川最下流に架かる柳橋から川面を眺めたら
もうウジャウジャのウジャ状態。
そのさまあたかも今は昔、
北海道の石狩湾に押し寄せたニシンの如く。
いや、びっくりしたなァ、もう!

「吉池」の売り場のオジさんとの会話はつづく。
「ボラの白子ってシャケみたいに大味なんじゃないの?」
「そうッスネ、ちょっと似てるかもしれないかな?」
「じゃあ、あんまり美味しくないだろうネ?」
「いや、ボラのほうがコクありますヨ」
「ふ~ん、そうかァ・・・じゃあ300gちょうだい」

300gで500円とちょっとだったと思う。
べらぼうに安い。
これがマダラの白子だったら1000円は下るまい。
トラフグだったら5000円は軽く超えるだろうヨ。

帰宅後、まず半量を煮付けにした。
湯を沸かし、醤油・砂糖・日本酒にしょうがを1片加え、
湯霜してブツ切りにした白子を鍋に投入。
5分ほどで白子を取り出し、煮汁はさらに3分ほど煮詰め、
小鉢に移した白子の上から掛け回す。

合いの手は冷やした清酒・浦霞だが
いや、マイッったな。
タラというよりフグの白子に近く、
かなりの美味に舌鼓ポンポンの巻である。

牛もつの煮込みのときと同様に翌日は趣向を変える。
残りの半量は塩・胡椒して小麦粉をはたき、
澄ましバターでソテーしてみた。
いわゆるムニエルでありますな。
仕上げはコニャックでフランベし、
安価なチリ産のシャルドネとともに味わうと、
ウワッ、これまたバッチリじゃないのっ!

いつまた逢えるか判らんが見かけたら必買の逸品は
奇妙どころか稀少な白子でありました。

「吉池」
 東京都台東区上野3-27-12
 03-3831-0141