2015年12月11日金曜日

第1249話 鯛や鰻の舞踊り (その5)

銀座は旧尾張町の交差点近く、
「竹葉亭」の2階席で酒色に、もとい、酒食に励んでいる。
鯛かぶと煮の皿も骨蒸し同様に頭蓋の残骸だけが残された。
文字通り鯛の舞踊りを堪能しきったカタチである。

竜宮城ならば続いて舞踊るのは平目ということになるが
生憎、うなぎ屋に真鯛は居ても寒平目は不在だ。
ここは主役の”うな吉どん”にご登場願おう。

注文したのは一番小さめ少なめの鰻丼(3000円+)である。
しっかし、うなぎも高騰したものよのぉ。
数年前の狂乱相場は落ち着いたものの、
うな丼1杯で天丼・鉄火丼なら2杯、かつ丼・親子丼なら3~4杯、
牛丼なら8杯も食べられる値段であるぞヨ。

「鰻丼は真鯛のあとでお願いします」―注文時に指定しておいた。
一流の店舗には一流の仲居さんが存在する。
客のペースを見計らい、グッドタイミングで配膳してくれる。
故・池波正太郎翁言うところの気働きに長けているのだ。
剣客商売、もとい、客商売の飲食店たるもの、常にこうありたい。

鰻丼がやって来てうなぎが好物の相方がニッコリ。
粉山椒を振る前にパチリ
シンプル・イズ・ザ・ベスト。
つややかにしてあでやかである。

 ♪  あんな哀しい 夜祭りが
  世界のどこに あるだろう
  足音を 忍ばせて
  闇にしみ入る 夜泣き歌
  君に見せたい 風の盆  ♪
    (作詞:なかにし礼)

なかにし礼が作詞だけでなく作曲も手がけた「風の盆」。
その2番だが
こんなシンプルなどんぶりが世界のどこにあるだろう。
余計なモノをそぎ取ったというか、何物も加えることができない。
茶道にも通ずる日本人の美学が象徴されている。

相方には肝吸い(300円+)を付けてやり、鰻丼を分け合って味わう。
うむ、ウム、まことにけっこうでありますな。
タレのまぶし具合もよろしく、
やはりうなぎは江戸・東京に限りますな。

名古屋の櫃まぶし、大阪のまむし、
それぞれに適材適所の妙を感ずるけれど、
鮨とうなぎ、ついでに天ぷらもかな?
日本全国いささか広うござんすが
花の東京に如くはございやせん。

=つづく=