2015年12月10日木曜日

第1248話 鯛や鰻の舞踊り (その4)

そもそもうなぎ屋にやって来て
重箱にせよどんぶりにせよ、主役のうなぎが整う前に
いろんなものをつまんで箸を染めるのは感心しない。
感心しないが店側だってそこは商売、
うざくやらう巻きやら用意周到、
準備万端の構えで客を待ち受けている。

先日紹介した代々木上原の「鮒与」など、
蒲焼きとお重のほかは肝焼きと骨せんべいのみと
余計な仕事は一切しない。
そんな町場の庶民的な店舗も少なくないが、
高級店においては前述のうざく・う巻きはまず間違いなくある。
品書きに載せていないと、格式不足と判断されかねないしネ。

通常、うなぎが焼き上がるまでのあいだ、
新香で一杯飲ることにしている。
そのために上新香を用意している店が多い。
うな重には小皿の新香がちょこっとばかり付いてくるから
区別して(上)を謳っているのだ。

その上新香(500円+)がすぐに運ばれた。
理想的なラインナップ
茄子・胡瓜・蕪・人参・大根の陣容は
非の打ちどころがない。
すっきりとした浅漬けがまたうれしく、
古漬けが苦手の身にはありがた味もひとしおである。

清酒に切り替えたとき、
鯛の骨蒸しとかぶと煮(ともに900円+)が卓上に並べられた。
こちらが骨蒸し
いわゆる鯛の酒蒸しだが「竹葉亭」では骨蒸しと称する。

以前はメニューに無かった一品で
その代わりに鯛のかぶと焼きが幅を利かせていた。
お運びの女性にその点を問い質すと、
彼女、申し訳なさそうに謝罪の言葉を述べる。
いや、べつに詰問したつもりはないからなだめて帰す。
おそらく塩焼きのほうが手間ヒマが掛かるのだろう。
焼き場から目が離せず、焦がしちゃったらアウトだもんネ。

骨蒸しとかぶと煮、食べ比べてみて相方ともどもかぶと煮に軍配。
この店に来ると必ず真鯛の二品を食するが
以前はかぶと焼きに軍配を挙げることも多々あった。
同じ塩味ながら酒蒸しよりも塩焼きのほうに
真鯛の旨味の凝縮感が顕著であった。

とは言え、お銚子の追加をお願いする頃には
先刻の骨蒸しがかような姿に変身したのだ。
しゃぶり尽くされた鯛かぶと
これなら鯛も本望、成仏したことであろうヨ。

=つづく=