2015年12月31日木曜日

第1263話 牡蠣よ 愛しの 牡蠣よ (その1)

好きな食べものとなるとオイスター、
いわゆる牡蠣はどう控え目に見積もっても
ベストスリーの座をはずすことはまずない。
生でよし、酢で〆てよし、フライもよし。
はたまた鍋もけっこうだし、
スープやシチューやカレーもいい。

なんでこんなに旨いんだろうネ。
海産物全般、いやいや貝類に限っても
あの美味、あの食感は他に類をみない。
奇跡が生んだ究極の海の幸と断じてよい。

柿くえば 鐘が鳴るなり 法隆寺

牡蠣くえば 腹が鳴るなり 法善寺

むかし、大阪は法善寺横丁のおでん屋で
思い浮かんだ駄句である。
とにかく牡蠣の美味しさは理屈抜きに舌を震わせる。

一般的に世に出回るのは瀬戸内は広島、三陸は宮城の牡蠣だが
J.C.がこよなく愛しているのは三重・的矢のソレである。
当コラムではいくたびも紹介しているから
今さらクドクドとは語らないが
あのデリケートな味覚は他産地の追随を許さぬものがある。

先般、ニューヨーク時代の旧友と
的矢牡蠣を愛でる機会に恵まれた。
舞台は気に入り店の丸の内「レバンテ」だ。
もう40年近くお世話になっている。

「レバンテ」は芥川賞作家・松本清張の出世作、
「点と線」に実名で登場したレストラン。
例によって自著「文豪の味を食べる」より、
その稿を引用させていただきたい。

遅咲き作家の淡き欲望

松本清張を初めて読んだのは中学3年生のときだった。
「点と線」である。
修学旅行で東京から京都に向かう列車の中で読み始め、
目的地に到着する前に読了した。
以来、立て続けに数十冊は読破したのではないか。
同級生同士でファンクラブのようなものを作り、
お互いに本の貸し借りをしたものだった。
そのせいで高校の受験勉強はそっちのけだ。
 
初めての清張を読み終わった最初の印象は
「推理小説ってこんなに面白いものなんだ」である。
そんな経緯もあり「点と線」は
推理小説という名の樹海に踏み入る第一歩となったのである。
 
=つづく=