2016年3月1日火曜日

第1306話 パキスタンの思い出(その7)

北緯25°に位置するカラチは
台湾の台北、東京都の硫黄島と同緯度にある。
だのにめちゃくちゃ暑い。
硫黄島には行ったことがないけど、台北よりはるかに熱いネ。

さて、10分と経たずに戻った彼女の手には小さな缶が一つ。
そのときすでに缶コーヒーが存在していたかどうかは知らねど、
それと同サイズだったろうか?
缶ビールよりずっと小さかったことだけは確かだ。

これが何と当時の日本を席巻していた、
サントリーのタコチューハイでありました。
もちろん、飲むのは初めて見るのも初めてだった。
シンガポール赴任時代は年に数回、
ホーム・リーヴやビジネス・トリップで帰国していた。
日本でついぞ目にしなかったのは
酎ハイはおろか焼酎自体に興味がなかったせいもあろう。

とにかく二日ぶりのアルコール飲料である。
ありがたく押し戴いて感謝の言葉を述べる。
冷蔵庫に保管されていたらしく、
いい感じに冷えていたが厳格な禁酒国で
真っ昼間から酒をあおるのはよくない。
よくないどころか秘密警察に見つかりでもしたら
わが身の安全は保証されない。

クルー仲間と一緒に引き上げる彼女と握手を交わし、
プールで100m ほど泳いだ。
時刻はまだ15時半、
タコチューハイとともに部屋に戻り、
とにかく夜の帳が降りるのを待つ。

デートの相手を待つ身もツラかろうが
時間の経つのを待つ身もまたツラい。
とまれ、やって来ましたセヴン・オクロック。
スーツやタイの備えはなくとも
一番オサレなシャツを着込んでみた。

メインダイニングはホテルの最上階。
東京はホテル・オークラの「ベル・エポック」みたいなものだ。
まずはビールを1本、
それから赤ワインのハーフボトルに移行する腹積もりである。
蝶タイを締めたギャルソンにさっそくお願いすると、
Oh, my God !
またまた首を振られたヨ。
「お客様、リカー類はルームサービス・オンリーとなっております」

  ♪   俺らこんな国いやだ 俺らこんな国いやだ
    トルコに行ぐだ トルコさ行っだなら
    銭コァ使っで トルコで酒飲むだ  
    ああそうしましょ そうしましょ
    そうしましょったら そうしましょ   ♪

吉幾三作詞・作曲の「俺ら東京さ行ぐだ」が
世に出たのは1984年11月、
カラチ事件からちょうど半年後のことでした。

=おしまい=