2016年3月8日火曜日

第1311話 小津の愛したダイヤ菊 (その5)

さて、巨匠・小津安二郎に寵愛された、
三上真一郎といえば若山富三郎の子分役だ。
これが渡世の義理から
伯父貴の鶴田浩二に命を投げ出す破目に陥る。
ここに三島由紀夫が指摘するところのギリシャ悲劇が生まれる。

う~ん、実によかった。
いや、命の投げ出しがいいんじゃなくって
演技がよかったんだヨ、真公のっ!
早いハナシが「総長賭博」は隅から隅まで好循環。
主役の二人に加え、
監督の山下耕作にもこれ以上の写真はないハズだ。
さらに加えてヒール役の金子信夫が
オー・マイ・ゴッドの大当たり!
日本映画界の至宝ともいえるバイプレイヤーの二大名演は
本作と裕次郎主演の「嵐を呼ぶ男」でありましょう。

振り返ればみんな死んじまったんだなァ。
みんな死んじまったんだヨ。
おっと、三上だけはまだ生きてる、生きてる。
「いま、小津安二郎」の三上の文章には
数葉のスナップが挿入されており、
すべてが新橋駅前ビル地下の酒場がらみ。
その名も「酒蔵 ダイヤ菊」ときたもんだ。

十数年前に目を通した一冊にもかかわらず、
この酒場のことをすっかり忘れていた。
その折りは明日にも訪れるつもりでいたのに
歳はとりたくない、まったくイヤになっちゃう。
その頃、古都・鎌倉在住の旧友・P子よりメール到来。
いや~な予感がしやしたネ、いったい何事かと思いきや、
此度は1本の映画につき合えとの仰せであった。

「映画かい? 映画はいいや、ほかを当たっておくれ」―
すげなく断りを入れると
「アカン、あかん、何言うてけつかるねん。
 観なきゃあきまへんって」ー
コヤツいつから大阪弁くっちゃべるようになったんかいのぉ!
源氏が平家におもねるようになったら世も末だわ。

「とにかく1本つき合って!」
「最近の映画は邦・洋ともに時間の無駄が多すぎてなァ」
「まあ、そう言わんと―」
「ダメ、ダメ、ムリ、ムリ!」
「ふん、判らずやっ! 舞台は1950年代のニューヨークなのに―」
「エッ?」
あとは心の中で叫んでいた。
(初手からそう言うてくれいっ!)

=つづく=