2016年3月3日木曜日

第1308話 小津の愛したダイヤ菊 (その2)

完成稿の代わりに下書きをアップさせて出かけてしまい、
失礼しました。
最近、こういうことがちょくちょくあるのは
ホンに困りものであります。
遅ればせながらまいりましょう。

「いま、小津安二郎」にて筆をとったのは俳優・三上真一郎。
抜粋しながら紹介したい。

”巨匠とチンピラと酒食の日々”

ぼくはね、小津先生の作品には
「秋日和」と「秋刀魚の味」の2本に出してもらったけど、
NGを出された記憶がまったくないんです。

「秋刀魚の味」の岩下志麻さんは、
父親から縁談を勧められたあと、
ひとり巻尺を手に想いにふけるシーンで
何回もダメを出されたといいます。
もちろん、笠智衆さん、佐田啓二さんのようなベテラン陣にも
厳しかったと聞いています。

小津先生と初めて飲んだのは「秋日和」の撮影終了後。
鎌倉の天ぷら屋で、最初に熱燗を杯に注いでくれて、
「後は好きにやってくれ」と、
こっちは貧乏だし、食べ盛り。
しかも、巨匠とチンピラの関係だから、
まったく臆することもなく、食べましたね、飲みましたね(笑)。

それが、小津先生には新鮮に映ったようで、
「真公、お前のような役者は誰も使わないよ。
おれは1年に1本しか撮れない貧乏監督だが、
おれで我慢しろや。撮るときは必ず真公を使うから」
といってくれて、それ以後いろいろ呼ばれては
ご馳走になりました。

蓼科の別荘に行ったときは朝から熱燗。
銘柄は、蓼科の地酒「ダイヤ菊」。
やかんにお湯を張って、
「ちろり」という錫の燗つけ器で湯煎するんですが、
決まって温度は55度。
熱いなんてもんじゃない。
フーフーいってちびちび飲んでいると、
「真公二日酔いか?」なんて、
平気な顔して飲んでいるんです。
酒量は大酒のみと表現する以外ないでしょう(笑)。
ぼくはいつも酔い潰れていましたから。

あれは「秋刀魚の味」の打ち上げを、
鎌倉の華正樓という中華料理店でしたときのこと。

=つづく=