2016年3月7日月曜日

第1310話 小津の愛したダイヤ菊 (その4)

三上真一郎が出演した小津の2作品は観ている。
べつに監督が手放しで歓ぶほどの名演技を披露したとも思えない。
ただし、育ちの良さそうな若い男優が
ほとんど登場しない小津作品にあって
一服の清涼剤的な役割は十二分に果たしているとは思う。
 
俳優・三上真一郎の印象がもっとも強かったのは松竹ではなく、
東映移籍後の第一作、任侠映画の「博奕打ち 総長賭博」。
あの三島由紀夫が絶賛した作品である。
今まで色眼鏡で観られていたヤクザ映画が
彼によって新しい息吹を吹き込まれたのだ。
おかげでご法度の裏街道を歩いていた作品群が
日の目を見ることができたんだからねェ。
コレはすでに大事件であった。
ギリシャ悲劇との同一性を謳われたのだからさもありなんて―。

仕上がりは確かにすばらしく、
任侠映画では高倉健の昭和残侠伝シリーズや
同じ鶴田浩二主演の人生劇場シリーズの上をゆき、
マイベスト1に君臨している。
すべての邦画中でも生涯の第三位に輝いているくらいだ。
エッ? 一位と二位は何だ! ってか?
それはまた紹介する機会もございましょう。

「博奕打ち 総長賭博」が封切られたのは1968年。
そう、釜本邦成&杉山隆一を擁する日本代表が
メキシコ五輪において銅メダルを獲得した年である。
ちなみにこの年のレコード大賞は黛ジュンの「天使の誘惑」。

今、手元に古き友人、
高平哲郎サンの「星にスイングすれば」がある。
各界のスターたちに体当たりで取材したインタビューを
まとめた著作なのだが、そこにこうあった。

「博奕打ち 総長賭博」を封切り前に観た主演の二人、
鶴田浩二と若山富三郎は観終わって
しばらく席を立てなかったそうだ。
そして二人のほほにはそれぞれ二すじの涙がかかっていたそうだ。

スゴいねェ、スゴいなァ、本当にスゴい。
TVのロケに出かけるたんびに”スゴ~いッ!”を連発してる、
女子アナ・女子タレとは次元がまったく違いまっせ。
おのれの無知と語彙の貧困を”スゴ~いッ!”でさらけ出してる、
バカどもとはまさしく真逆にあるのです。

鶴田の妹が当時美しさ満開の藤純子。
彼女の夫が若山富三郎。
したがって鶴田&若山は縁戚上の義兄弟でありながら
渡世の上でも兄弟分なのでした。

つづく=