2016年3月14日月曜日

第1315話 小津の愛したダイヤ菊 (その9)

新橋駅前広場に面して、むか~しからあるニュー新橋ビル。
その地下1階は「酒蔵 ダイヤ菊」の奥まった卓に二人。
目当てのロードショウをすべったために
晩酌を繰り上げているわけだ。

 ♪    心に沁みる 雨の唄
    駅のホームも 濡れたろう
    ああ小雨にけむる デパートよ
    今日の映画(シネマ)は ロードショー
    かわす囁き
    あなたと私の 合言葉
    「有楽町で逢いましょう」  ♪
       (作詞:佐伯孝夫

ああ、なんて素敵な曲なんでしょう。
作曲者・吉田正の国民栄誉賞もむべなるかな。
彼の先輩、佐伯孝夫の歌詞もまた素晴らしく、
J.C.がもっともリスペクトする男性歌手・フランク永井も
一世一代の名唱を披露している。
わが愛する「にっぽんの歌」で
間違いなくベストスリーに数えられる楽曲なのだ。
いや、ひょっとしたらベストワンかもしれないが
それは今決めたくはない。

この曲のリリースは1957年11月。
歌詞に登場するデパートは今は無き有楽町そごう。
鳴り物入りでオープンしたのは半年前の5月25日だった。
不振にあえいであえなくクローズしたのが2000年9月24日。
半世紀に満たない短い命であった。

この時期、歌謡週刊誌「平凡」が同名の小説を連載したり、
映画会社の大映が同名映画を製作したりしている。
小説は未読につき、評価しかねるが
映画はヒドいデキで目を覆うばかり。
せっかく好きな女優の京マチ子を主役に持ってきてるのに
飼い殺しもいいところであった。

小津安二郎の大ポスターににらまれながら生ビールで乾杯の巻。
突き出しはコンニャクの炒り煮だ。
壁の品書きボードを見上げた。
お造り5点盛り(1680円)を筆頭に
〆さばや真鯛刺し、たこ刺しの生モノ。
ホッケ、うるめいわし、ししゃも、いか一夜干しの焼きもの。
串カツ、アジフライ、芝海老揚げの揚げもの。
一応、一通り並んでいる。
中でも湯豆腐(600円)と馬刺し(880円)に印が付いているから
これが当店のオススメなのであろう。

すると相方のP子が反対側の壁を指さした。
振り返ると、おう、おう、手ごろな品々があるじゃないの。

=つづく=