2016年3月17日木曜日

第1318話 花嫁は二児の母 (その1)

金融界に身を置いていたときの直属の部下、
K嶋K枝サンからメールをもらったのは新年早々だった。

「オカザワさんは年末年始をふるさと長野でお過ごしですか?」―
こう始まる文面には意外なことごとが綴られていた。
数年前に英国人男性と結婚して二児の母親となり、
現在はシンガポール在住とのこと。
そして二月には帰国して遅ればせながらの結婚披露宴を催すので
ぜひ、出席していただきたいとあった。

彼女との出会いはJ.C.がニューヨークから帰国した直後。
バックオフィスで働いていた彼女が退社したいと言う。
話を聴いてみると、
バックからフロントに移り、ディーラーに挑戦したい由。
ふ~む、なかなかのガッツの持ち主ながら大丈夫かネ?

われわれの職種は外国為替&外国資金を
市場で取り扱うマネーブローカー。
バックオフィスからフロントデスクへの異動が
まったくないわけじゃないが多難な前途が想像に難くない。
生半可なことじゃ勤まらないんだ。

それでも明晰な頭脳、人並み以上の器量、
何よりも本人の熱意を総合的に判断し、
あえてレールを敷いてやることにした。
「けしてムリはするんじゃないヨ」―
そう言い含めてネ。

その結果、東京に赴任してきたブリティッシュと
所帯を持つシアワセに恵まれたわけだから
J.C.は縁の下の力持ちならぬ、
縁の下のキューピッド的役割を果たしたことになる。
われながらけっこう役に立ってるじゃん!

二月吉日。
披露宴に赴いた。
会場はザ・プリンス パークタワー東京のボールルーム。
ここは東京プリンスホテルの新館的存在である。
思いおこせば、青春時代の重要な一時期をこのホテルで過ごした。
フランス料理に関する知識もこの場所で習得したのだった。

加えて新郎新婦が現在、駐在するシンガポールは
J.C.が初めて海外赴任した思い出の土地なのだ。
何か因縁めいたものを感じる。

さらに加えて披露宴会場に進んで着席し、
これより入場して来る新郎新婦のメインテーブルを見やると、
脇にはこもかむりの十斗樽。
しかも銘柄が信州・諏訪の真澄ときたもんだ。
何から何まで因縁めくんだよねェ。

=つづく=