2016年3月16日水曜日

第1317話 小津の愛したダイヤ菊 (その11)

辛口ダイヤ菊を注しつ注されつするあいだに
もつ煮込みがやって来た。
コンニャク入りのオーソドックスな一鉢
相方ともどもさほど期待もせずに箸をつけると、
ややっ! 意想外の出来映えに視線が交差して仲良くニッカリ。
うむ、ウム、こいつはかなりのレベルであるぞヨ。
下町の良心的な大衆酒場クラスだ。
 
なんだかうれしくなっちまったなァ。
心なしか酒の味まで一段上がったような錯覚にとらわれる。
いや、これは錯覚じゃなくってホントにグレード・アップしたんだヨ。
酒と肴が互いに引き立て合っている。
晩酌たるもの常にかくありたい。
 
もつ煮込みを追いかけるように身欠きにしんが運ばれた。
皮目がパリッといい感じ
脂のノリもよいようだ。
ところが先に箸をつけた相方が小首を傾げた。
なんだ! なんだい? ヤな予感。
こちらも続くと、塩気が少々足りない。
まっ、これはあくまでもマイナー・プロブレム。
卓上の生醤油を軽く垂らしてみた。
 
二合徳利がカラになる。
ともに嫌いじゃないほうだから
よせばいいのにお替わりの巻であった。
心の中では
(おい、オイ、これから映画を観るんだぜ!)
そんなつぶやきが聞こえないわけじゃないんだが
もう、どうにもとまらない!
リンダ、困っちゃう!
 
ついでに¥300メニューにあったレバーの味噌漬けを追加した。
これは明らかに先刻味わったもつ煮込みに誘発されたもの。
内臓好きのJ.C.は豚の白もつ(小腸)だけでは満足できず、
肝臓も食べたくなったのだった。
やって来たのは明らかに鶏レバー
そりゃそうだヨ、
豚レバーだったらしっかり火を通さなけりゃネ。
 
そうしてこうしてほろ酔い気分の春の宵。
ロードショーが億劫になってしまい、
このまま飲み続けたい心持ちなれど、
それじゃ相方が納得するまい。
第一、すでにチケットを買ってあるのだ。
 
「キャロル」を観終わり、どことなく不完全燃焼。
1950年代のニューヨークもそれほど映されてたわけじゃない。
その旨、口を尖らせて伝えると、
「よく言うわ、ぐっすり寝ちゃってたクセに―」
「ハイ、どうもすんません」
 
=おしまい=
 
「酒蔵 ダイヤ菊」
 東京都港区新橋2-16-1ニュー新橋ビルB1
 03-3580-5375