2017年5月3日水曜日

第1614話 ラブホ三連荘 (その4)

御徒町ガード下の「味の笛」。
15時の開店から四半刻を経過して
店内がだいぶ立て込んできた。
1階の立ち飲みコーナーは
まだ開いていないからなおさらだ。

サッとボイルされたホタルイカに
舌の鼓をポンポン打ち鳴らしながら思った。
ビールだけの友にしておいてはもったいない、
日本酒と合わせてみよう。

この店に来ると佐渡の北雪を慈しむのが常。
確か前回は北雪に加えて麒麟山を楽しんだ。
旨い酒だった。
当店の清酒の取り揃えは新潟の産が主流。
ほかには道産も数種類ある。
たまの北帰行も一興、釧路の北の勝をチョイスした。

  ♪    窓は 夜露に濡れて
     都 すでに遠のく
     北へ 帰る旅人ひとり
     涙 流れてやまず   ♪
      (作詞:宇田博)

1961年、日活スターの小林旭が歌って大ヒットした、
「北帰行」は元をただせば旧制旅順高等学校の愛唱歌。
作詞・作曲ともに同校の一回生、宇田博である。

旭は中央大学学生歌の「惜別の歌」をも
持って生まれた高いキーを駆使して広く世に知らしめた。
誰の企画か存ぜぬが
卓越した着眼及び着想に敬意を表したい。
ここで「惜別の歌」を一綴りしたいところなれど、
グッと我慢でまたの機会を待とう。

場面を「味の笛」に戻そう。
選んだのは北の勝だった。
しっかり期待に応えてくれて、なかなかの美酒である。
北帰行を決断したのは間違いではなかった。
いつぞやも書いたが日本人は北へ回帰する民族なのだ。
おっと、アメリカにもそんな人物がいたな。
そう、「北回帰線」のヘンリー・ミラーという作家がネ。

北の勝をお替わりするため、サービスカウンターへ。
ここでたまたま見つけたのが生まれて初めて目にする珍品だ。
名札には”伸子いか煮干し”とあった。
伸子にはノブコではなくシンコのふりがな。
おそらく小肌の幼魚の新子に掛けているものと思われる。

伸子いかはホタルイカの赤ちゃんで3~5月限定とある。
しかも、あら珍しや! 京都産との由。
へェ―ッ、京都でホタルイカが穫れるんかいな。
おもむろに老眼鏡をかけ直した。

=つづく=