2017年5月5日金曜日

第1616話 上野広小路の夜は更けて (その1)

東京から遠く離れてはいないが
その夜、北の町から上野駅に帰ってきたとき、
中央改札の時計は23時を回っていた。
夕めしを満足にとらなかったから腹が空いている。
スターヴィングではなくともハングリーだった。

駅舎前の中央通りを横断して
アメ横方面をブラついてみた。
大箱の立ち飲み2軒は向かい合わせ。
その脇にはこれまた大箱の焼きとん屋。
夜が更けてもみな活況を呈している。
少々疲れていたせいか、
喧騒の中に身を沈める気になれなかった。

浅草と違い、上野は夜の深い街。
とはいっても日付けが変わる頃ともなると、
選択肢はあまり残されていない。
はて、どうしたものかなァ。

通りを渡り返して上野広小路にやって来た。
湯島に通ずる仲通りの入口である。
通りには居酒屋・鮨屋・ビアパブと
様々な業態が軒を連ねているが
風俗系の客引きが手ぐすね引いて待ち受けている。
それもいかがわしいのばっかり。
わずらわしいから通りに足を踏み入れることはしない。

今宵はちょいと飲んでサクッと食べればそれでよい。
TSUTAYAの隣りのビルには1階に「すしざんまい」、
2階に「サイゼリヤ」が早朝まで門戸を開いている。
(どっちでもいいや)
期待は持てないから何となく投げやりな気分。

粉わさびで食べるにぎり鮨より
ポルチーニのスパゲッティを選びたかったが
やはり疲れてたんだネ。
ワンフロアの階段を昇るのが億劫だった。
それに鮨屋には好みの銘柄のビールが置かれている。

鮨職人たちの威勢のよい掛け声に迎えられて入店。
ここは過去に三度ほど利用した。
10年ほど前のオープン時には
店先に大きな水槽が二つ並んで
数種のサカナが群れ泳いでいたものだ。
撤去されたってことは回転が悪くて
採算が取れなくなったのだろう。

目の前の職人さんにビールを注文すると、
生か瓶かを問われる。
それなりの繁盛店だから常に生ビールは新鮮なハズ。
生を選択した。
ほぼ同時に平目の昆布〆と小肌のにぎりをお願いする。

待つこと5分。
いまだにビールは未着であった。
たまりかねた職人が催促の声を上げてくれた。

=つづく=