2017年5月19日金曜日

第1626話 鰻美味し 彼の店 (その3)

ぬか漬けと奈良漬をアテに土佐の銘酒、酔鯨を酌み交わす。
酒友との話題は主としてスポーツ、それも相撲に集中する。
K下サンは遠藤の大ファンなのだった。
(伸び悩んでますネ)
気分を害するといけないから口には出さない。

ここでふと思った。
自分がひいきにする力士は誰なのか? と。
そりゃ稀勢の里の横綱昇進はうれしいし、
三連覇を成し遂げてほしい気持ちはやまやま。
モンゴリアン・トリオの三横綱に太刀打ちできるのは
新横綱と、その弟弟子の高安くらいしかいないからなァ。

あらためて思い起し、ひいき力士の不在に気づいた。
相撲自体は好きだが
これといった対象が見当たらないのは淋しいこと。
振り返れば小学校低学年の頃、
全盛期を迎えていた褐色の弾丸、
房錦が唯一無二の存在だった。
人気絶頂の大鵬と相性がよく、
多くの番狂わせの立役者だった。

それにしても日本の相撲ファンは
大相撲の隆盛を独りで支え続けてきた白鵬に
ちょいとばかり冷たすぎやしないかい?
他人には言えない辛さ、苦しさをすべてのみこんで
角界に尽くした横綱にはもっと敬意を払ってしかるべき。
そうだ! これからは晩節を迎えた白鵬を応援しよう。

まっ、そんなハナシを酒の肴に飲んでいた。
さて、実物の肴、肝焼きはそれなりの美味しさ。
珍しいヒレ焼きは鰻のあっちゃこっちゃのヒレをまとめ、
串にクルクル巻いた大葉を芯にして焼いたもの。
美味である、珍味である。

さらに盃を重ねた末、
締めには相方がまむし重、J.C.は一番小さなうな重だ。
当店は関西風のまむし重、関東風のうな重に加え、
名古屋名物のひつまぶしまで取り揃えてある。

蒸しのプロセスを省く関西スタイルはワリと好き。
名古屋のひつまぶしは
邪道とまでは言わないけれど、まったく好まぬ。
よって関の東西の二者択一と相成るワケだ。

何のことはない、セレクトの決め手となったのは
サイズがワンパターンのまむしに対し、
オーソドックスなうな重には(小)サイズがあったから―。
そうなんですヨ、
どんなに美味いモンでも食いすぎれば不味くなる。
かの文豪、夏目漱石だってそう断言している。

ただ、残念だったのは添えられた新香。
初っ端お願いした盛合せから
奈良漬が外れただけで、あとはまるで同じ。
ここは一ひねり欲しかったぞなもし。

=おしまい=

「千根や」
 東京都台東区谷中5-9-25
 03-6319-8457