2017年5月18日木曜日

第1625話 鰻美味し 彼の店 (その2)

JR日暮里駅そば、谷中霊園の脇に朝倉彫塑館あり。
硬い素材を彫り刻む彫刻(カーヴィング)に対して
粘土などの盛り付けにより造形するのを彫塑(モデリング)という。
でもってその彫塑館だが、あまり興味を惹かれないせいか、
そのうち行ってみようとは思うものの、未だ入館したことがない。

その代わり、と言っちゃあなんだが
はす向かいにある鰻屋に惹かれた。
記憶が確かならば、開業は去年の秋口。
まだ1年に満たない新店である。
もっとも惹かれたワリには未訪問だったんだが―。

屋号を「千根や」という。
ロケーションが千駄木と根津の間で
地番は谷中5丁目だから「千根谷」。
右から音ずれば「やねせん」となって
近年、老若男女を問わず、
お散歩コースの定番となった谷根千に通ずる。

店頭には品書きのほかに
いろいろとご託宣が提示され、
しかも英語訳まで用意されてる周到さ。
加えて英文が素人のつたない翻訳に非ずして
そんなところにも店側の並々ならぬ意欲が見てとれる。

うなぎ大好きのK下サンを誘い、
初訪問に及んだ春の夕暮れ。
谷中随一の名所、夕焼けだんだんに近いため、
界隈には洋の東西の垣根を越えた散歩者がウヨウヨ。
まことに賑やかなことである。

家を出る前にビールはたっぷり飲んできた。
これにはビール嫌いで
清酒好きの相方に合わせる意味合いもあった。
よっていきなり高知の酒、酔鯨を上燗でいただく。

好みの銘柄ではないにせよ、
日本酒ファンには定評のある酔鯨ではある。
その証拠にK下サンは満足の笑みを浮かべて
盃を重ねている。

肴はまず鰻屋の定番、お新香。
内容は、きゅうり・かぶ・にんじんの浅漬けに奈良漬。
ほぼ完璧なラインナップと言える。
締めのうなぎに添えられるはずの新香とは
多少なりとも異なることを希むばかりだ。

鰻屋でうざくやう巻きを頼むことはないが
肝焼きは必注中の必注。
その肝焼きに加えて幸いにも品書きに載っていた、
ヒレ焼きを2本づつお願いした。

=つづく=