2017年5月8日月曜日

第1617話 上野広小路の夜は更けて (その2)

上野広小路に面する「すしざんまい 上野店」。
つけ台に着いて生ビールの到着を待っていた。
ようやく届いたのはジョッキじゃなくてタンブラー。
ほぼ一息で飲み干せる容量だ。

一緒に供されたのは愚にもつかないお通し。
くらげとわかめの和え物である。
これには箸をつけず、脇に追いやった。
あとで勘定書きを見たら金二百円也。
正月の本まぐろの初セリでは
金に糸目をつけぬワリにセコい真似をするものよのぉ。

職人さんは客の飲みものが出る前に鮨をにぎらない。
ビールの到着を見届けて
すぐに平目の昆布〆と小肌を目の前に置いた。
生をグイッと飲ったらガスがちと弱い。
それなりに冷えてはいるがパンチ力に欠ける。

常々、ビールの泡が嫌いと言ってきたが
理由が二つあって、もちろん泡自体を好まぬのと、
いま一つは泡立ちをよくしてしまうと、
液体から炭酸ガスが抜けるからだ。
ぬるいビールと気の抜けたビールだけはごめんこうむりたい。

平目の上には塩昆布が乗っていた。
そのぶん〆加減がゆるい。
ここで以前に食べて失敗したことを思い出した。
学習効果がないというか、記憶力が衰えたというか、
自責しながら後悔のホゾをかむ。

小肌はまずまず。
酢も塩も弱めだが素材の香りは立っている。
あゝ、ここに生のわさびがあったらなァ。
またまたないものねだりをしてるヨ。

だけどねェ、日本一のまぐろが
どの店舗で出されるのか知らないけれど、
粉わさびを添えられたひにゃ、大間のまぐろが可哀そう。
それこそオードリー・ヘプバーンに
ジバンシーの代わりにユニクロを着せるようなもんだ。
いや、べつにユニクロを卑下するわけじゃありやせん。
現に今コレを書きながら来ているTシャツだって
3枚1500円のユニクロ製だもの。

ネクストのにぎりを頼む前にビールを瓶に切り替えた。
うん、やっぱりこれだ。
グラスに静かに注いだから炭酸に力が残っている。
生は信頼のおける店舗じゃないとダメだネ。

白身と光りモノのあとはかつおとまぐろ赤身を所望。
以前食べて、そこそこだったのを覚えている。
とかくこの店、白身ははずすこと多いが
青背は信頼感指数が上がるのだ。

=つづく=