2021年10月5日火曜日

第2756話 婆っちゃまの楽園でストロガノフ

台東区・不忍池と文京区・護国寺の間を

弧を描いて走る全長8kmの不忍通り。

その東半分、池から六義園までは

よく歩くコースで言わば縄張り圏内。

 

動坂下交差点そばのカフェの店頭メニューに

ボルシチとビーフストロガノフがあり、

常々、気になってはいた。

自家製だろうか? パン屋さんを兼ねている。

しかし、海老ピラフやナポリタンに混じり、

何でまたロシア料理が並んでいるんだろう。

 

思い切って、いや、思い切らなくてもいいんだが

一訪に及ぶと、フロアにマダムらしき女性。

カウンターに白いシェフコートのオニイさん。

喫茶店というより、やはりカフェの雰囲気だネ。

 

客たちの年齢層は極めて高い。

それもご婦人ばかりである。

二人掛けのテーブルに着き、

ストロガノフのセットをアイスレモンティーで通す。

添え書きにロシア風ハヤシライスとあった。

 

ナポリタンを食べてた婆ちゃんがマダムに話しかけた。

「今日はぜえんぶ、キレイに食べちゃったわヨ」

「わぁ、スゴい、頑張ったネ」

何だヨ、来るたんびに残してたんか―。

穏やかな時間がゆるゆると流れる。

5~6人の婆ちゃんグループがときどき笑い声を上げる。

 

サラダとともにディッシュが着卓。

ホントだ、どう見てもハヤシライスだ。

具材はビーフとマッシュルームだが

ソース主体で固形物は哀しいくらいに少ない。

 

肉片はホンの2~3切れ。

ビーフストロガノフを名乗るには少々無理がある。

ロシア人に出しでもしたら

北方領土は永遠に返ってこないだろう。

 

ところがスメタナ(サワークリーム)が功を奏し、

味付けはなかなか、美味しくいただけた。

小さめのポーションは年配者向きだ。

おざなりでないサラダも好印象だが

男性客がいないのは量的満足感を得られないためか―。

 

それにしても当店は婆っちゃまのパラダイス。

とめどなくパラパラとやって来る。

1200円を支払い、ドアを引くと

今度は不忍通りに面したオープンテラスで

爺っちゃまが二人仲よくコーヒーを飲んでいた。

 

いやはや、平均年齢が高い店だこと。

ん? そういうオメエも大して変わらんだろ! ってか?

ハイ、おっしゃる通り。

恥ずかしながらワン・ノブ・ゼムでした。

 

「カフェさおとめ」

 東京都文京区本駒込4-40-6

 03-3821-0808